短編小説

□*Hope*
2ページ/5ページ


ハリーはドラコを引っ張り、ベッドから立たせた。


「―――さぁ、行こうか」

「どこへ?」

訳も分からず、引っ張られて、窓際まで歩かされる。


ハリーは窓の下の木を指差した。

「あそこの左の枝先があるでしょ?あそこがそれだから」

「いったい何のことを言っているんだ、ハリー?寝ぼけているのか?」

「あの左の枝に、用意したんだ、ポートキーを」

「ポートキーだって?!」

「うん。あれに触ると別の場所へ移動できるんだ」

「いったいどこへ?」

「それは秘密だよ」

笑っていたずらっぽく、ウインクをする。


「―――さぁ、行こう。日付が変わる前に」

その途端、ドラコはしり込みした。


この部屋はかなり塔の高い位置にある。

地面までの距離は遠くて、もしあの枝をうまく触れなかったら、地面にたたきつけられることになる。

下手に打ち所が悪かったら、首の骨が折れるかもしれない。


「大丈夫だよ」

確信を持ってハリーは言う。


「もし失敗しても、君一人で逝かせやしないから、安心して」

不吉なことを言って、クスクス笑う。


「君は本当にいくじなしで、度胸もないね。ドラコ」

「なにっ!」

顔を真っ赤にして相手をにらみつけた。

「でも、そういう所もみんな好き」

抱きしめて、唇を重ねた。


蜜のような甘い言葉が、耳元に流れ込んでくる。


「君を抱きしめたまま死ねるんだったら、僕は本望だ」


「知らなかったよ。英雄殿の望みは、世界の平和かと思っていたのに」

皮肉を込めて相手を見た。

そうしなければ、別の言葉を言いそうになったからだ。


ハリーはドラコを両手に抱きしめたまま、窓の桟に腰をかけた。

「いっしょに天国へ行こう」

「縁起でもないっ!」

見つめあい、ふざけたように笑って、ふたりでふわりと空へと飛んだ。


耳に風を切る音がする。

落下するスピードは思ったより早くて、あの枝がどれだったか分からない。


――僕たちは指先を伸ばし、何かをつかもうとした――




        
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ