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□2.*笑う花嫁*【ペチュニア→リリー←ジェームズ】
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そんな二人の行動を、瞳の隅に入れながら、ペチュニアはひきつった顔をベールで隠している。
自分の式ではなかったら、とっくにあの二人の間に割り込んでいた。
(……まったく……)
と舌打ちをする。
薔薇のブーケを握りなおすと、
(早くこんな退屈な儀式なんか、終ればいいのに)
などと思い、フン!と鼻息も荒くふて腐れていた。
彼女はこんなバカげた儀式なんか大嫌いだった。
やせっぽちできゃしゃな容姿も、10人並の自分のウエディグドレス姿も、いったい誰が見て喜ぶのだろうと思う。
しかも相手の夫となる男は、でっぷりとしたお腹の冴えない姿だ。
(……自分が見世物にされているみたいで、本当にイヤっ!)
他人に注目されるなんて、ペチュニアには耐え難い苦痛だった。
(―――でも、リリーがあんなに泣いてくれるのは、本当に嬉しいのよね。リリーがわたしのことを思って泣いてくれるのだったら、何人も男を騙して何度でも結婚式をしてみたいものだわ……)
そんな勝手な想像をして不適に笑う。
ペチュニアが言うところの退屈な儀式はゆるゆると進み、誓いの言葉やリングの交換では、リリーの大量の涙と嗚咽が教会に響いた。
そして誓いのキスのために、ベールを上に上げたペチュニアに、リリーはうっとりとする。
―――が、相手のバーノンのフランクフルトのような太い指が、ペチュニアの細いあごを持ち上げ、キスをしようと顔を寄せていくのを見た瞬間、リリーはたまらず席を立ち、前に突進しようとした。
ジェームズはラガーマンのような見事なタックルで、リリーを椅子に押し戻す。
「なにするのよっ!離してちょうだい」
「リリー……、お願いだから」
「離して」
「離すもんか」
と小声で押し問答をしている間に、ふたりは誓いのキスをあっさりとしてしまった。
リリーは拳を握り締めると、それを見事にジェームズの腹に叩き込んだ。
―――ボスッ!
鈍い音とともに、ジェームズは前につんのめる。
予想だにしなかったリリーのボディーブローに、ジェームズの前に星が舞った。
痛さで声も出ない。
「……あいつ、わたしのペチュニアになんてことを!絶対にブチ殺すっ!!」
何かがリリーの中で切れたのだろう、低い声で言い放った。
目が据わり、ギラギラとイヤな光を放っている。
リリーの八つ当たりのパンチを受けて、ジェームズは逆に泣きたくなってきた。
自分が好きになったのは、花のような女性だったはずだ。
―――それなのに、どうして?!
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