シリーズ小説

□【Noelシリーズ】
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2.


ドラコはそのまま眠ってしまったらしい。気がつくとあたりは真っ暗だった。


感情がひどく昂ぶったせいで、少し頭痛がする。

うつぶせの格好だったから、首のあたりが強張っていた。

腫れたまぶたをこすり、無意識にベッドから降りようとすると、その高さが予想外に高かった。


いや、高いってものじゃない!

それは果てしなく高い!

高すぎる!!


まるで二階の窓から飛び降りたように、からだが急転直下に落下する。

ドラコは信じられず悲鳴を上げて、からだを丸めた。

すると無意識のうちに背中をひねって、両手足で着地する受身のポーズを取った。

そうして、加速をつけたまま床へと落ちる。

条件反射で取ったポーズのおかげで、背中をしたたか打ったり、足を骨折することはなかったけれど、着地したときの振動はものすごかった。

足の裏からからだ全体に這い上がってくる、着地のショックは強烈で、ジンジンとする痛さに、立て続けにドラコは声を上げた。


「――えっ、なに?!」

ガチャリとドアが開いて、ハリーが顔を覗かせる。


…………ドラコは絶句した。


相手があまりにも大きいからだ。

背丈が高すぎる。

どう見てもそれは巨人族の高さだ。


「おっ、おまえはどうしたんだ、それは?!誰かから呪いをかけられたのか?!!」

あまりのショックに声が裏返ってしまったが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。

目の前に立って自分を見下ろしているハリーは、巨大すぎて自分は相手の膝丈くらいの高さしかない。


しかしハリーはじっとドラコのことをじっと見下ろしているだけだ。

数秒間黙ったままでいたけれど、次の瞬間には相好を崩し、ニッコリと笑った。


「わーっ、かわいいなぁ」

そう言って腕を伸ばし、ドラコを胸元へと抱き上げて、その頭を撫でた。


「いきなり何するんだ!ついでにかわいいって、誰に向かって言っているんだ、ハリー。冗談が過ぎるぞ!」

威嚇した声を出して、「フーッ」と背中をそば立て、隠していた爪が伸びる。


「わっ、いててて……。そんなに怒んないでよ」

ハリーは腕にめり込んだ爪先に、痛そうな声を上げた。


「ごめん。ごめん。突然抱き上げたから驚いたよね」

言いながら、今度は機嫌を取るように背中のラインに沿うように撫でる。


途端にからだに電流に似たゾクゾクとする快感が背中を走った。

「ニャーン」

まるで猫のような甘えた声が漏れて、目を細めハリーに自分のからだを摺り寄せた。


「気持ちいいの?」

うんうん、とばかりに尻尾を立てて、それをフワフワと横に揺らす。

無意識に喉がゴロゴロと鳴った。


ハリーのボディタッチはありえないほどの気持ちよさだ。

背中を摩られて、首筋を撫でられただけで、こんなにも理性が溶けてしまうなんて信じられない。

頭のどこかで、(これは絶対におかしい!)という自分の声が聞こえてくる。


そんなことは分かっているはずなのに、背中を撫でられているだけで、もうすべてのことがどうでもよくなってきた。

ハリーの体温も大きな手も、みんなドラコには馴染みがあるものだ。


ただ、いつも付けているトワレの匂いがしなかった。

深い森のような香りはとても好きだったから、誕生日に何本かまとめてプレゼントしたはずだ。

それを今日は付けるのを忘れたのか?


ふと顔を上げると、ハリーの眼鏡がいつもの形ではないことに気付いた。

ふちが黒くて太いスチール製で全体的に野暮ったい。

あまりの似合わなさに、ドラコは眉を寄せる。

そんな不恰好なフレームは、10代の頃にかけていたものにそっくりだ。


あんな格好の悪いものなど、とっくに処分したはずだ。

「あの銀のフレームはどうした?」と尋ねようとして、また戸惑う。


相手はホグワーツの制服を着ていたからだ。

(――コスプレ?!)

危うくドラコは叫びそうになった。

目を見開き、口がガクリと下に落ちる。

そして勢いのまま相手に食ってかかった。


「どっ、ど、ど……、どうしたんだ、ハリー!お前、気でも違ったのかっ?!!」

そのまま胸倉を締め上げようとしたけれど、相手は規格外に大きいので、仕方なく拳で相手の胸を何度も叩くだけになってしまったことはしょうがない。


「いい加減にしろ!今、お前は呪いを受けてありえないほど巨大化しているから、それを元に戻す方法を考えなくちゃならないのに、なに暢気にマニアックなことをしているんだ?!制服プレイなんか、男同士がして何が楽しい!ああいうのはスカートを履いてやるから楽しいんだぞ。いい加減にしろ!」

ドラコは畳み掛けるように、マシンガントークのように矢継ぎ早に相手を罵倒した。


そしてそのままハッと顔を上げて追加する。

「ああっと、一言言っておくがな、ハリー。いくらスカートがいいって言っても、貴様は履くなよ!絶対にやるな!そんなのはただ気持ち悪いだけだ」

ドラコは眉をしかめて、釘を刺した。

こうしてダメだしをしておかないと、相手はムキになってトコトンまで突き進むタイプだったからだ。

今までに何度も経験しているから、ドラコは用心深くなっている感は否めない。


カッカと熱くなっているドラコを尻目に、ハリーはいたってのんびりとしていた。

「白くてフワフワで本当にかわいいなぁ」

やさしい手つきで何度もその背中を撫でる。

途端にドラコはプルプルと全身を震わせた。

あまりの気持ちよさに、眩暈がしそうだ。


ちゃんと落ち着いて物事を考えなくてはならないのに、どうしてもその愛撫に自分の全神経が引っ張られてしまう。

ドラコのハリーの腕の中で甘えた声ばかりを出して、からだから力が抜けていった。

喉の下あたりを撫でられると、もうたまらないほどの気持ちよさだ。


(もっと)と自分から摺り寄せて続きをねだる。普段の彼からはとても考えられない態度だ。

ハリーはそんなドラコを楽しげに見つめて、顔を寄せてくる。


「君、どこから来たの?迷子なのかな。飼い主が見つかるまで、ここに僕といっしょに暮らそうか」

(今更いっしょに暮らそうかなにも、ずっといっしょに住んでいるじゃないか、僕たちは)

眉を寄せて、訝しそうなまま頷く。

するとハリーはとても嬉しそうな顔をして、ドラコに頬ずりをした。

「わっ、頷いてくれた!僕の言っている意味分かってくれたのかな?」

ゴシゴシという迫ってくる感じがすごく鬱陶しい。


「放せ!」

爪を出して相手を突っぱねると、ハリーは「イテテ……」と言いながら慌てて離れた。

それでも満足そうにドラコの頭を撫で続ける。

またその気持ちよさに、ドラコは全身を震わせた。


「ああ……っ、そんなに撫でるな」

まるで喘いでいる声が漏れてしまう。

ハリーはドラコを見つめて、ご機嫌でこう言った。


「ホント、君はとてもかわいい子猫だよ」


――――まさか、そんなバカなっ!!!


■NEXT■



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