シリーズ小説

□【Noelシリーズ】
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【美味しい食事】

オフィスから帰宅すると、キッチンから明かりが漏れていた。


ハリーは玄関のドアを閉めるといぶかしそうに首を傾げながら、足音を立てずゆっくりと廊下を進む。

ドラコの帰宅はいつももう少し遅い時間が普通だったし、もし早めに帰ってきたとしても、彼がいるのは常にリビングであって、キッチンではなかったからだ。


リビングはひっそりと静まり返りうす暗い。

隣のキッチンからは明かりとともに冷蔵庫を開ける音が漏れてきて、不審そうに奥を覗きこんだ。


「―――えっ?」

信じられないという表情で目を見開く。


ドラコがシンクの前で何やら忙しそうに動いていたからだ。

その姿はどうみても今夜の夕食の準備をしているようにしか見えない。


驚き戸惑ったように動かないハリーの足元にふんわりとした何かが触れてきた。

見下ろすと白いふさふさの子猫が、帰宅したばかりのハリーにじゃれついている。

長くて優雅なしっぽをゆっくりと左右に振らし、いつもの彼女なりの「お帰りなさい」の挨拶に、ハリーは笑ってノエルを胸元に抱き上げた。

小さくてかわいい背中を撫でると背を反らせ、撫でる手に自分の体を熱心に擦り付けて、子猫はご機嫌にゴロゴロと喉を鳴らす。


「シィーーーッ」

指を口の前に立てて『黙って』というジェスチャーをしつつ、再びそっとキッチンを覗いた。


ドラコが包丁で野菜を切っているのが見える。

全く慣れていない危なっかしい手つきでそれと格闘しながら、彼のとなりではガラス製の鍋が沸騰してカタカタと甲高い音が上がり、ふたが小さく上下に揺れていた。

忙しそうに動き回っている後姿をしばし見守った。


そうして声をかけずにこっそりと足音を忍ばせて、その場から離れてそっと廊下を歩いてベッドルームへと向う。

コートを脱ぎ、スーツをハンガーに吊るして、ラフで着心地がいいセーターとジーンズに着替えると、バタリとベッドに倒れた。

寝転がっているハリーに子猫が甘えるように近づいてくる。


ハリーは彼女を抱きかかえると、その青い瞳を見詰めながら、嬉しそうに語りかけた。

「―――何を作っていると思う、ノエル?今日は僕たちが付き合いだして、半年目の記念日なんだ。ドラコは結構こういうことに疎くて忘れっぽいと思っていたのに、まさか記念日を覚えてくれていたなんて!あのドラコが手料理!!!感激だなぁ」

ハリーは目を細める。

「それに、見たかい、あの危なっかしそうな手つきを。きっと初めてじゃないのかな、ああいうことをするのが。……それでも慣れなくても、夕食を作ってくれるなんて、感激ちゃうよ」

白い子猫の毛並みを撫でながら、ハリーののろけ話は続いた。


「ああ、本当にどんな料理が出たとしても、僕は文句を言わずに全部平らげるつもりだよ。それが男ってもんだよな!」

自分の胃袋が丈夫なことを感謝しつつ、ハリーは幸せに身悶えつつ、猫といっしょに寝返りを打った。



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