短編小説

□*Over the Rainbow*
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外はまだシトシトと雨が降っていた。

グレーの雨雲にグレーの街並み。
世界が無色に見えてしまう。



その中を傘もささず唇を噛みしめて、ドラコは前へ前へとわき目を振らずに怒りにまかせて歩き続けた。

「なんだ、あんなヤツ」などと小さい声で呟く。

「最低だ」と毒づいた。


―――最初からうまくいかないことは分かっていた。





……ふたりが付き合いだしたきっかけは、ホグワーツに在籍していた頃の話だ。


中庭で偶然鉢合わせたときいつもの口論からエスカレートして、つかみ合いの喧嘩になって、そのとき弾みでドラコが相手を殴ったのだ。

いや、本当は威嚇の意味で殴るフリだけをするつもりが、それがタイミング悪く相手のほほにヒットした。


「グッ……」と息を飲み口を押さえたハリーの指の間から、血がボタボタと落ちてくる。

口の端を切ったらしい。

そこから鮮血が滲み出している。



ドラコは自分が仕出かしたことに驚き、ハリーは相手の驚いた顔を見て自分の傷の深さを知ったのだろう。

真っ青な顔で震えているドラコに、口元を押さえたまま「ハンカチ持ってる?」と尋ねた。

震える指でそれをポケットから差し出すと、ハリーは布を切れたところに当てる。

ショックで今にも倒れそうなドラコを見て、ハリーは「大丈夫だから」と答えた。

「こんなのはかすり傷だよ。もっとひどい怪我は何度もしているんだし、君が気に病むことじゃないから」と、逆に気軽に声をかけてくる。

何度も「気にしなくていいから」と告げた。


……ただそれだけだったんだ。


傷を負わせたことをキッカケにドラコはハリーに「大丈夫か?」と声をかけるようになった。

そのたびにハリーは頷き、「平気だよ」と答えてくれた。

自分を気遣うドラコにハリーは嫌な顔をしなかった。


ドラコはそれが嬉しかった。


―――嬉しくて、なんだか泣けてきそうなほどだった。



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