短編小説
□*Over the Rainbow*
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ボーイが運んでいたサンドイッチに、ドラコにしては乱暴な手つきでそれに掴みかぶりつく。
口いっぱいにほおばり、ムシャムシャと飲み込む。
ちょっとポークがしょっぱいけど、知ったことじゃない。
挟んでいるレタスは大きくちぎってあって芯が硬い。
全粒のライ麦パンは水分がなくてパサパサで、しかも粒があって飲み込みにくい。
すぐにドラコはパンにむせてしまった。
ゴホゴホと咳き込んでいると、ハリーが「しょうがないなぁ」と言いながら飲み物を手渡す。
ドラコは礼も言わずに一気に半分くらい飲み干した。
そしてまたサンドイッチにかぶりつく。
「どうしたの、ドラコ?そんなにおなかが空いていたの?」
「早く帰るためだ。早く平らげて、僕は帰る。気分が悪いからなっ!」
そう言いつつ、相手をジロッと睨みつけた。
「君はひどいヤツだ」
怒りにまかせたまま口の端についたドレッシングをナプキンで拭い、それをバサリとテーブルに放る。
ドラコは感情が昂ぶるとグレーから薄青い瞳に変化して、それはそれでとてもきれいだけれど、今彼の感情を昂ぶらせているのは明らかに怒りだった。
慌ててハリーは否定する。
「ちがうよ、ドラコ!僕は怒っているんじゃないだ」
サンドイッチを掴んでいた手からそれを強引に離し、ドラコの手を握りこんだ。
「ただ僕にはショックで……」
「悪かったな!僕にはどうしようもなく似合ってないからか?」
フンと鼻で嗤う。
「違うって!よく似合っているよ。本当だよ。君の白い肌に緑のフレームはよく似合うよ。レンズはちょっとグレーが入っているの?」
「ああ、スリザリンカラーだ」
ムッとした顔のままドラコは答えた。
ハリーは握りこんだ手をそっと撫でて、そこにキスをする。
「とても似合っているよ」
重ねて囁くと、ドラコの耳たぶの先が少しだけ赤くなった。
だけどその表情からは怒りが消えていない。
「恥ずかしいから離せ」
ぶすったれた顔のまま握られた手を引っ込めようとするけれど、「嫌だ」と言ってハリーは離そうとしなかった。
「いいから離せ。それともココで僕にブン殴られたいのか?大の大人がこんな場所で修羅場をしたいのか?」
「まさかそんなことで別れ話を切り出すつもりなの?」
「……ああ、そんなことで悪かったな。そんなことで……」
ドラコの声が低く威嚇し、自分の手を引っ張る。
離すもんかとばかりに、ハリーも引っ張り返した。
意地の張り合いからふたりの間に余計な力が加わり、手の甲に痛みが走る。
ドラコは微かに悲鳴を上げた。
「―――っつ!」
苦痛に寄せられた眉、食いしばった口。
慌ててハリーは手を離した。
「ゴメン。痛かった?大丈夫、ドラコ?」
心配げなハリーの声をはね付け、不機嫌なままガタンと椅子を引いて立ち上がる。
テーブルの端にあるチェックに自分のサインを書き込み支払いを済ませると、そのまま踵を返した。
受付で自分の持ち物を受け取ると後ろも見ずに店外へと出て行く。
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