短編小説
□*世の中、何があるのか分からない*
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「――あれ?マルフォイ、なんでそこにいるの?」
クリスマスパーティで盛り上がっている省主催の貸切の会場を出て、中庭へと続く廊下の片隅に黒いタキシード姿の相手がうずくまっていた。
「五月蝿い、放っておいてくれ」
不機嫌な声でプイとそっぽを向かれる。
相手がぶっきら棒で、愛想のない態度はいつものことなので、ハリーにはどこ吹く風だ。
じろじろと無遠慮に相手を見回す。
外は雪が降り積もっているほど寒いのに、ドラコは石で出来たチェアーにひとり、座り込んでいた。
もちろん廊下までは暖房などされていなくて、凍えるほど冷たいのに、じっとして動こうとはしない。
「――誰かと待ち合わせ?」
「そんな訳ないだろ。いいから、さっさと去れよ」
うっとうしそうに手で払うような仕草をされる。
そんなことをされたら、余計ちょっかいを出したくなってしまうのがハリーの性分だ。
『去れ』と言われたら、逆に行動して相手を困らせ、からかおうとする。
しかも、ドラコは「あっちへ行け」と言うばかりで、自分からは動こうとはしない。
ツカツカと相手に近づき、座っている相手を見下ろすように観察すると、スーツにチラホラと雪が付いていた。
「なんで、雪?もしかして、君、まさかこの寒空に外へ出てたの?」
ドラコはむっつりと黙り込んで、それ以上喋ろうとはしない。
からだに付いた雪が溶けることなくそのままということは、この場所も相当冷え込んでいるはずだ。
見るからに相手が寒そうなので、思わずその雪を手で払う。
まさか相手がそんなことをするとは思ってもいなかったようにドラコは驚き、ビクリとからだを震わせた。
途端に「あっ!つっ……」と微かな悲鳴が上がる。
「えっ?別にそんなに強くは叩いてないはずだけど……」
戸惑ったように、ハリーは相手から離れた。
眉間にシワを寄せてうめいている相手は、肩ではなく足首を押さえて震えている。
「――もしかして、足を挫いたの?捻挫とか?見せてみて」
屈みこむと有無を言わさず、ズボンのスソを少したくし上げる。
下ろしたソックスの下、白い足首が赤く腫れて熱を持っていた。
「……かなりひねっているみたいだね。ここ、痛いだろ?」
「痛くない!」
きっぱりと言い切られて、ハリーは笑ってしまいそうになる。
いつも彼は昔から逆のことばかりを言っていたけれど、それがまだ大人になった今でも続いているのがおかしかった。
「でも、なんで雪?どうして外へ?」
廊下の端に目をやると床から天井まで続いている大きな窓があり、そこが大きく開いて、濡れたような靴跡がずっとこちらまで続いている。
その跡が濡れているのはきっと、ドラコの靴底に付いた雪が落ちて溶けたものだろう。
「ただ家に帰ろうとしただけだ。うっとおしくて」
不機嫌にドラコは答える。
『うっとおしい』という言葉に、思わずハリーは失笑した。
なんだよ?!という鋭い瞳で、ドラコはジロリと相手をにらんだ。
「いや……、確かに、アレは僕が見ても、うっとおしそうだった。たくさんの女性に囲まれていて。君のステディを目指そうと虎視眈々と狙って、ものすごく火花が散っていたよなぁ」
うんうん、という感じで頷く。
ドラコはフンと鼻を鳴らした。
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