短編小説

□*Coffee Break*
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ドラコが魔法省の下っ端の書記官になったのは生活のためで、それは仕方がないことだった。


血筋が古い家系の大貴族の嫡男が人の下に仕えるなどと家族の者は、その不運さを嘆いたけれど、ドラコ自身はいたって平気だった。

なにしろ財産はほとんど没収されて、今いる屋敷以外の物件や別荘を手放してしまっても、まだ日々の暮らしは困窮をしているのが現状だ。


ホグワーツを卒業したあと、少しでも生活の足しになればと、すぐにその仕事に就くことに同意した。

――いや、そのほかの仕事など選べる選択肢など、省の管轄下におかれているマルフォイ家には、最初からなかった。


毎日決められたノルマをコツコツと仕上げていく規則正しい、ほとんど変化がない職場というのは、実際ドラコの性格にもよく合っていて、仕事への不満はなにもない。

ただ、マルフォイ家は闇の魔法陣営の側だったというレッテルは、職場での人間関係には何かしら影響を与えていた。


影口やギクシャクとした態度、あからさまに無視されることも別段珍しいことではなかった。

それでもドラコは毎日、出勤することが苦痛だと思ったことは、一度だってない。




朝8時すぎにデスクに座り、カバンを置くと、視線をドアに向ける。

ガラスのオフィスのドア越しに、自分の部署へと出勤するたくさんの人びとが通り過ぎていく。

その人ごみの中である人物を見つけると、後に続くようにドラコは立ち上がり、ドアを開けて背中を追った。


省内の各階の奥の中庭に面した場所には、それぞれ、ちょっとした休憩スペースが設けられている。

本格的なカフェテリアではなく、少しのテーブルとスツールがあり、フリーのドリンクバーが用意されていて、ここで飲み物を飲んだり、持ち込んだ軽い軽食を取ることが出来たりもする。


そこで、背中を向けてドリップコーヒーを入れている、収まりの悪いブルネットの癖の強い髪型はむかしのままだ。


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