短編小説

□*THANK YOU*
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隠し部屋のドアを閉めると途端にもう、ドラコの表情がガラリと変わる。

今までのきつくて固い氷のような横顔を一気に緩ませて、振り向きざまにハリーに抱きついてきた。


「ポッター……。今日のクィディッチの試合、最高によかった!」

そう言いながら、少しの伸びをして両手を首にからませて、鼻を摺り寄せて笑う。


「そうかな?今回はハッフルパフもしぶとくてさー、苦労したよ」

顔をしかめて頭をかくと、ドラコは首を横に振った。

真っ直ぐで柔らかそうな髪の毛がふわりと横に広がる。

「そんなことないさ!余裕たっぷりに最後は一回転までしてスニッチを掴むところなんか、背筋がゾクゾクした。―――君があまりにもカッコよくて……」

舌でじゃれるようにハリーのほほを何度か舐めると、瞳を細めて笑いかけてくる。

「君のことを好きだと大声で言いそうになった」


その言葉にハリーは大きく表情を崩して、ひどく嬉しそうな顔になった。

「そんな大げさな言葉は僕の専売特許だと思っていたのに」


ドラコはハリーをじっと見つめる。

「キスをしよう、ハリー……」
真っ直ぐな眼差しは少し潤んで熱をはらんだまま、薄灰色の瞳で覗き込んできた。


「―――キスだけ?」

ハリーがからかうように言うと、
「まさかっ!」
笑いながら手を取り、ドラコは自分からベッドへとハリーを誘う。


ドサリとふたりしてもつれるように倒れこむと、そのまま深いキスをした。

舌を甘く噛むと、ドラコは目を細めて、とびきり気持ちのよさそうな顔をして微笑む。


少しだけ音を立てて唇を離すと、ドラコは両手でハリーの眼鏡を持ち上げて、そっと外してテーブルに置いた。

そしてそのまま両手で相手のほほを包み込み、真剣な表情でハリーの顔をじっと見つめる。


「―――死なないで欲しい、ハリー」

「この場面じゃあ、愛しているのほうがいいんじゃないの?」

「ああ、愛しているから、死なないで欲しい。僕をひとりで置いていくな」

そう言って、またぎゅっと抱きついてきた。細い肩が少し揺れている。


胸元に顔をうずめて、すがってくる背中を抱きしめ返した。

「不安なの、ドラコ?」

「ああ……。不安で不安で仕方がない……」

顔を上げるとドラコのその瞳は不安の色にくすんでいる。


「―――時々、君のことなんか好きにならなければよかったって、思うときがある。よりによって、なんで君のことなんかを好きになってしまったんだろうと、後悔してばかりだ」

ぎゅっとシャツを握って震える。


「本当に後悔しているの?僕のことを好きになって」

「ああ……。君となんか出会わなかったらよかったのにって、何度思ったことか」

ハリーは相手の背中を安心させるように何度も撫でた。


「でも、出合ったんだから、もう仕方ないじゃないか――」

ほほにキスをすると、ドラコは肩をすくめる。


「別に君に不満があるわけじゃない」

「わかっているよ、そんなことは」

「ただ、君が背負っている運命が気に入らない」

「もし僕がそこらへんにいる『ただのハリー』だったら、君は僕のことなんか好きになんかならなかったくせに」

からかうように言うと、ドラコはその言葉に苦笑する。


「そうだな。僕は『ハリー・ポッター』だから好きなったのかもしれない」

「ドラコはブランドに弱いからね」

「僕は自分以下の人間は相手になんかしないからな。むかしから…」

「確かに、やたら突っかかってきたし、ドラコの嫌味やイジメは超一流だったよ」


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