短編小説
□*Song for you*
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週末の夜、若い魔法使いや魔女が集まる非公式なパブにハリーはひとりで訪れていた。
テーブルが並び、気のあったグループがそこここで酒を酌み交わしながらおしゃべりを楽しんでいる。
幾分暗い店内は心地いいゆったりとしたムードが漂っていた。
彼がひとりでここを訪れたのは、シェーマスたちが別のクラブに行ってしまったからだ。
あのうるさい音楽に身を任せて誰かを誘うことに、もう飽き飽きしていたから、今夜はそのグループに混ざらなかった。
踊ってさえいれば相手には事欠かなかったし、誘えばすぐにOKが出るのが悪い訳じゃない。
軽い関係はつまり、出会いの手軽さいっしょで、すぐにどちらかが飽きてあっけなく終わってしまうことに、ハリーはうんざりしていた。
人ごみを縫うようにカウンターに向かい、飲み物を注文して、そこのスツールに腰掛けた。
ラガーの喉越しを楽しむように一気にパイントグラス半分まで飲み干すと、満足気にため息をつく。
こうしてアルコールがからだ中に行き渡り、回ってくるのをぼんやりと待つのがとても好きだった。
明日は休日で何も予定がない。
尻軽な恋人とは2週間前に別れたばかりで身軽だったし、夜はまだこれからだ。
ひとりだというのに、なんだか幸せな気分が満ちてきて、ハリーは少し笑いたくなってくる。
しかし、ここで一人でニヤニヤしていたら他人にはとても変なヤツに見えてしまうだろう。
口元がむずむずするのを引き締めて、また一口グラスを傾けた。
この店には最初気付かなかったけれど、ステージがあり、そこでちょっとしたバンドが会話の邪魔にならない程度の音量で演奏をしていた。
何曲かメロディーのみの曲が続き、少し間をおいて軽い拍手が起こった。
新しいグループに変わったのかもしれない。
ハリーはそちらには目を向けず、スツールを回転させて逆のテーブルのほうへと目を走らせた。
誰かいい相手でもと思っていたけれど、テーブルはグループかカップルのみで埋め尽くされている。
自分のようなひとり者など、ほとんどいない。
それはそうだろうと、ハリーは首を振る。
ここは会話を楽しむための場所だ。
出会いを求めるなら、やはりクラブのほうが正解だろう。
分かりきっていたけれど、今夜は自分が選んでここに来たのだから、大人しくアルコールを楽しんでから帰ろうと思った。
空になったグラスを渡し、新しい飲み物を注文して、それに口を付ける。
背後からギターの演奏と共に、柔らかい絹のような声が響いてきた。
新しい演奏が始まったのだろう。
少しかすれたように、耳元で囁いているような声が心地よかった。
別段ギターテクニックが上手なわけではなく、声も朗々と響くような大きくて伸びのある歌声では決してなかった。
しかしそれは、このざわついているパブの中で目立ちもしないけれど、聞いていると耳障りがとてもいい。
ハリーはゆっくりとステージへと顔を向けた。
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