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□2.*笑う花嫁*【ペチュニア→リリー←ジェームズ】
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1.
華やかで厳かな結婚行進曲が流れる中、リリーは滝のような涙を流していた。
(……きれい、なんて綺麗なの……。わたしのペチュニア)
感極まって、嗚咽ともしゃくりともつかない声が出る。
ジェームズはそんなリリーを気遣って背中をさすろうとするのだが、その手はうっとおしそうに払われた。
しかし差し出しされた新しいハンカチだけは受け取り、逆に今まで手に持っていた涙でぐっしょりと濡れたハンカチをジェームズに押し付ける。
ジェームズは少し困った顔をしたが、仕方なしに自分のポケットにそれを押し込んだ。
彼は心の中でため息をついた。
(……まぁ、これでいいさ。これであの妹の来訪が少なくなるのなら、リリーのこのハマリっぷりは多少、多めに見ようじゃないか)
ジェームズはニヤニヤ笑った。
あのお邪魔虫が来ないと、リリーは自分が独占できると喜ぶ。
普通は夫婦なのだし、いくら身内でも自分が優先されてしかるべきなのに、いつもジェームズはリリーをこの憎らしい妹とシェアーしていたのだ。
それはリリーが望んだことで、別にペチュニアもジェームズも、そんなことは望んでいなかった。
どちらもが、リリーを独占したかったがっていた。
一度、結婚して間もない頃、たまらずジェームズは尋ねたことがある。
「自分と妹、いったいどちらが大切なんだ?」と。
もちろんその答えは聞くまでもなかった。
リリーはあっさりと
「妹に決まっているじゃない。なに寝ぼけたこと言ってるのよ!」
と、きっぱりと言い切られた、苦い思い出がある。
いつも選ばれるのは妹で、負け犬は自分だった。
でも、その辛抱も今日で終ると考えると、多少のわがままも許せるというものだ。
彼は鼻歌でも歌いたい気分だった。
リリーはずっとバージンロードを静々と歩いてくるペチュニアから目を離さずに、感動で涙にくれながら何度も頷いている。
そして父親から新しく夫となるバーノンにペチュニアが手渡された途端、「ヤメテーッ!」とリリーは叫んだ。
もちろん慌ててジェームズが、その口をふさいだ。
リリーの声はかき消され、ジェームズの行動に怒ったリリーは、真っ赤な顔でにらみつけてくる。
「やめないか、リリー。大切な式なんだから」
小声でたしなめた。
「こんな式、壊してやるわよっ!」
ひそひそとリリーは返事をする。
「なに言っているんだ。大切な君の妹の結婚式なんだろ?一生の思い出を壊されたら、きっと一生君のこと許してくれないと思うよ」
「……でも、ペチュニアが……。わたしの天使が―――」
たまらず、涙がまたあふれてくる。
彼女は今、大切な妹の結婚式を祝いたい気分と、それを壊してやりたい気分の中で、激しく揺れ動いていた。
すがりつくようにジェームズを見上げる瞳に、ジェームズは愛おしさがこみ上げてくる。
その緑の目元にあふれる涙を指先でぬぐってやった。
「大丈夫だよ、リリー。安心して……」
耳元に優しくささやく。
リリーはぎゅっとジェームズの手を握った。
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