短編小説

□*Cherry Blossom*
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桜並木を僕は歩いていた。



少し満開を過ぎた木々からはピンクの花びらが、ヒラヒラと舞っている。

地面を覆うように落ちた花びらが、まるで淡いカーペットのようだ。

見上げれば暖かな日差しを受けて花は咲き、風に揺れてそれが雪のように広がり、世界は薄桃色に染まっていた。


通り過ぎる人びとはみんな笑顔でそれらを見上げつつ、桜の花の美しさに感嘆し、楽しげに歩いている。

俯いたままそんな世界には目もくれず、僕は黙々と歩いていた。




―――世界が終わってしまう。



悲壮な面持ちで前へ前へと進み続ける。

地面を見詰めたまま、わき目も振らずにただ俯いたまま歩いていた。

頑なに足元を見詰めていないと不安だった。

ひとつ躓くと、泥沼に陥りそうだったからだ。

ひたすら前だけを見て僕は歩いた。



―――どうしてこんなことになったのか……



唇をかみ締める。


―――彼の人生はこれからだったはずだ。戦いが終わり戒めを解かれ、やっと自由になったと思ったのに、どうしてこうなったんだ?

絶望的に首を振る。

―――「これから何をしよう?」
と彼は自分の未来に思いを馳せ、少々不安げに、それでも楽しそうに目を細めていたのに、どうして?



目の前をはらはらと桜が舞い落ちてくる。

花びらは淡い薄桃色で、世界は暖かな光に満ちて輝いていた。

けれどその中で僕だけがこの美しい世界から取り残されて、息が詰まるような思いでいっぱいになり、胸がつぶれそうになっていた。




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