*オリジナルSS*【下に追加されます】

□『見えないけれど』
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それは付き合い始めて5年目、若干マンネリ化してきたかな…という事すら気にならなくなったある日の事。



「好きって言ってあげて下さい」

「……………は?」


あまりにも突然なセリフに、思わず素で返してしまった。


「好きって言ってあげて下さい」

「え、ちょ、どうしたの?」

同じ言葉の繰り返し。
全く意味がわからない。

「だからさ、好きってさ、言ってくんない?」

言い方変えても内容一緒。
うん。
本当マジどうしたの?


訳が分からない、という顔の私に気付いたのか、それともただじれただけなのか
「なんか、俺ばっか好きな気がすんだよな」
と彼。



「そんな事ないよ?」
そう言ってみるけど

「あります」
と返される。


「いやいやないって」

「いやいやあります」

え、何この押し問答。
これまだまだ繰り返す気?


「好きって言ってあげて下さい」
そしてまたそこに戻るのね。

「あー、ハイハイ、ちゃんと好きですよー」
我ながらなんだか適当。


だってなんか改めて要求されると恥ずかしいし。
それに付き合い始めじゃないんだから…というのもあるかも。

でも、今のはなかった……かな?



もっと愛情こめて!とか文句言われるかも…………と思ったのだが、

「………ん、ありがと。」

意外にも彼は納得した様子。


え、私が言うのもなんかアレだけど、さっきので満足しちゃったんだ?

そして本当になんなんだ。




そういや付き合い始めってどんなだっけ?なんて考える…けどあんまり思い出せない。

初々しいだろうな、なんて。
付き合い始めはどこも初々しいだろうに。



なんだか当然のように過ごしてきた。
隣にいるのが当たり前になるくらい一緒にいた。

付き合い始めの頃は思い出せないのに、これから先の未来はなんとなく……。
当然のようにいる気がする。


これが最高の出会いだった?
これは最低な出会いだった?



そんなのわからないし。
どっちも思ったりだってするけど。


悪く言えば空気。

でも私にはなくちゃならない、大事な酸素。



有り難くも彼は私を好いてくれてる。
"好き"の言葉を要求するくらいには。


そろそろ次の言葉を要求してくれてもいいんだけど、今の彼が可愛くみえるし。



なんだ、私めっちゃ好きじゃん。


「うわぁ。」

「え、どうかした?」

「さぁ?」

「疑問を疑問で返すのやめようぜ?」




まぁ、とりあえず。






「私も酸素でありたいなー、なんてね。」

*END*

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