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□『平凡ランプ』
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「なんだ、コレ」

いつものように登校し
いつものように授業を受け
いつものように帰宅。

…するはずだったのに。




家まであと数十メートルというところで、見慣れぬものを発見した。


「…ランプ……?」

金色のそのランプは、まるで中からランプの精が出て来そうな…
つか、まんまソレ。

「マジなんか出てきたりして」
と冗談言いつつこすってみた。

思えば、この時こすりさえしなければ、俺は平凡な高校生活を平凡なまま過ごせたのだろう。

悔やんでも悔やみきれない。




「あ…?」

「えー?誰、呼んだのぉ〜」

こすった瞬間ランプから女の子。
身長、約15pくらいだろうか?


んな馬鹿な!


思わず固まる。
ちょ、待て待て待て、ありえねぇだろ!?


マジでランプから精霊?
何のファンタジー!?



ちなみに、テレビで見たようなランプの先から煙りと共に…とかいう登場ではなく、擦ったらフタから顔をのぞかした。
ランプの精というより、タコツボから覗くタコの方が近いかもしれない。
ランプの小人…?





「つか、あんたがこすったのぉ?」

すげぇ嫌そうな顔でランプにひじをつきつつ聞かれる。

そんに嫌な顔すんなよ…
なんか地味に傷つくじゃねぇか。


「ま、誰でもいっかぁ…久しぶりのご主人様だしねぇ〜。で、願いなんなわけ?」


……なんか、めっちゃ態度でかいんですが…。
でも、願いは何って…か、叶えられるのか!?

冗談?
や、まずこいつの存在がファンタジーだ!!
すべて信じろ、俺っ!!!

別に言うだけならタダだし!

「じゃあ、億万長者に…」

「ああっ……!」
わざとらしく溜め息をつきながら両手を広げて回る。

「いつの時代も人間共の願いはいつも一緒か…。今一度考えて欲しい!本当になりたいのか?お金を持った為、苦労して働くことをやめ、酒と女に溺れ見るに見かねぬありさまになった者、大金目当ての輩に命を狙われた者をたくさん見てきた…
それでもお前は、本当になりたいと思うのか!!?」

「…………。」

「……………………。」

「………やっぱいいです。」


「よかろう!さぁ、次の願いを述べよ!!」


つか、急に願いとか聞かれてもなぁ………。

最初ので心が折れたっつーか、なんかもうメンドクサイっつーか。


「じゃあ、帰って下さい。」
「却下」

うわぁ、即答!

「私が寂しいじゃないかっ!」

しかもそんな理由かよ!?

「私さぁ〜………誰も擦ってくれなくてさぁ?150年もランプの中に一人っきりで」

しかも自分の話はじまったー!

「120年前なんか、私を拾ったくせに擦らず売っぱらう輩まで……!」

うーわぁー。
しかも長そう。


つか、150年っておばさんじゃん。
つか、おばあちゃんか?

「お黙り!!」

声に出てたのか?
めちゃくちゃ睨まれた。


「で、何か願いはないのか?」

「んー……なんも思いつかねぇなぁ…」

なんか、もしかして俺ってからっぽな人間だったのか?




平凡に生きてきた。
その今までに後悔なんてない。
不満なんてないんだけど………。


「大丈夫」

「え?」

「大丈夫。今生きている事に意味があるんだ。これから自分を作ればいいんだから」


まるで心を見透かされたみたいで思わず顔が熱くなる。

「背伸びしなくていい。お前が望む等身大の願いを願え。」




等身大の、願い。


平凡な俺が、平凡な日常を過ごして。
不満なんかないよ。

平凡を維持する事は、全然平凡じゃなかったから。




「そうだな………有難う。俺の願いは………」

「願いは?」




単純な事だったんだ。


「もうランプに戻ってください。」
それだけ言ってランプを地面に戻した。

俺にファンタジーは似合わねぇ!!


「ちょ、おまっ………!わかった、億万長者に……ちょっ!!戻ってこいってばっ、私じゃランプ重くて運べな……特別に3つまで叶えてやるからー!!!」

聞こえない。
俺には何にも聞こえないぞ。
うん。


呪文のように自分に言い聞かせながら、帰宅した。


いつものようににご飯を食べ
いつものように風呂に入り
いつものように予習……はいつもしてねぇか、うん。


そして夜はいつも通りの時間に就寝。

俺は、平凡を取り戻したんだ。


平凡じゃなかったあの出来事は、夢として。
でも、大切な夢としてきっと心の奥に……………









「行ってきまーす」
それは平凡な1日の始まり。


昨日ランプがあった場所にもうあのランプはなかった。

他の誰かが拾った?擦った?



「もしかしたら、本当に夢だったのかもな」
小さく笑った。

空を見上げ、
もしまた願いが叶うとしたら何を願うだろう?
そんな事を考えていた。



平凡はつまらないと思われがちだけど
平和な日常こそが平凡で。

それを維持する為に奮闘するのも悪くないから………






ガンッ
カラカラカラカラカラ………


何かを蹴った。
乾いた音を響かせ転がるソレは……



「………や、やかん?」
何故やかん?
今日ゴミの日とかじゃないんだが……


「ちょ、蹴るなんて何を考えておるんだっ!?」

「なっ……!」


やかんの中から出てきた身長20pほどのその女の子は………


「昨日のっ!!?」
つか、身長が伸びてるぞ。
それよりランプはどうした、ランプは!!



「で、願いはなんだ?」





………………俺の平凡な日常は、まだしばらくはないらしい。

*END*

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