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□『衝動』
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消えてしまいたい衝動にかられる時がある。

ふわふわ、ふわふわ。
風船になって空の彼方へ行ってしまいたい。



「風船って、上空何メーターまで行けるんだっけ」
歩道橋から少し身を乗り出して、空を見上げながらそう呟いた。

俺の記憶が正しければ、ある高さまで行ったら割れてしまうはずだ。
鳥だって、そこまで高くは飛べないんじゃなかったか?

「誰も、何も、自由じゃないんだな」
風船も。
鳥も。

そして、俺も。


空を見上げたまま、自嘲気味に笑う。


その時だった。


「早まっちゃ、ダメ!!」
思いっきり後ろから抱きつかれた。

「……………は?」

「アナタは生きるべきなんです!!」

「……………はぁ。」
振り向くと、同い年くらいの女の子が俺の背中にしがみついていた。

「アナタには生きる使命があります!だからっ!!」

……………もしかして、俺自殺しようとしてる、とか思われてる…?

「本当に早まっちゃダメです!絶対!!」

「早まってるの、そっちだから!別に死にたいとか思ってないからっ!!」

慌てて告げる。

「へ?そうなんですか?」
彼女はきょとん、として俺を見上げた。
そして目が合った
…途端に突き飛ばされた。

「キャッ!」
「…っぶね!!」

危うく歩道橋から落ちそうになる。

「わわっ、すみませんすみません!!私思わずっ」

「あ、いや、ははは…」
力ない笑いでごまかす。
が。
(こ、怖かった…!まじ落ちるかと思った…)

「あの、大丈夫ですか?」
「あ、平気平気。落ちなかったし。」
落ちそうにはなったけど。

「そうじゃなくて…や!勿論それもあるんですがっ」

「?」

「その、すごく悲しそうに見えたから………」

「だから、俺が飛び降りるって思ったの?」


「消えちゃうんじゃないかって、思いました…。消えるとか、有り得ないですよね…」
すみません、と赤くなった彼女が呟く。

「名前!教えてくれない!?」
反射的にそう言った俺に、彼女は笑いながらもっと赤くなった。

きっと俺も赤くなってる。
頬に集まる熱を感じながら、何聞いてんだろ?なんて考えた。


それは反射的なもの。
そして衝動的なもの。



消えてしまいたい衝動にかられる時がある。
でも決して消えはしないし、空の彼方へ行ける訳でもない。

だって、引き止めてくれる人が必ずいるから。

誰にでも、必ず。

家族かもしれないし、友達かもしれない。
苦手な奴かもしれないし、知らない奴かもしれない。

でも、きっと必ずいるから…




ふと、
ロケットとかなら、空の彼方まで行けるか…?
なんて思ったのは、また別のお話―――――――


*END*

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