*オリジナルSS*【下に追加されます】

□『優しい時間』
1ページ/1ページ

「今日誕生日だろ」

彼のその一言にとても驚いたのは、付き合い始めて1ヶ月の記念日どころかクリスマスやバレンタインデー、更にお正月すらも忘れる程のよく言えばマイペース、悪く言えばボケまくりの人だからである。
ちなみに、お正月の"おめでとう"メールに対し「?とりあえず、ありがとう?」の返信が来た時はさすがの私もキレた。
その"おめでとう"じゃない!いや、その"おめでとう"…になるのか?
とにかく!
そんな彼が私の誕生日を覚えてるなんて!

……………あ、ありえないっ!

「ど、どうしたの?熱でもある?」
そんな失礼極まりない私の発言に気を悪くした様子もなく、
「彼女の誕生日くらい覚えてるよ。
それに………………。
………祝いたいじゃん」
なんて可愛い事を言ってのけた。
ちょっ………!こっちが照れるんですけど!

彼の耳が少し赤い事に気づき、私の頬も赤みが増す。

照れくさいのか、私の目を見ないように渡された袋を受け取る。
彼からの初めてのプレゼントだ。
一応言っておくと、ホワイトデーは当然のごとく何もなかった。バレンタインのチョコは彼にとって"なぜか貰った"ものだったらしい。私の緊張を返せ!
生まれて初めての告白だったのに!!
まぁ、今こうして付き合えてるので結果オーライとしておくとして……

プレゼントだ。緊張と期待が自然と高まる………………が。

「プレゼントって言ったら"花"って言われて」

誰に!?
てゆーか、待て待て待て!

「……………花………の本?」
中に入っていたのは生花どころか造花でもなかった。
紛れもなく本である。
詳しく言えば、"花の写真集"。

「花の好み、わからなくて」
「………そ、そう」

「一応、俺なりに好きそうな本選んだつもりなんだけど…」

選んだのか!!
花の写真集を高校生男子が本屋で選んでる姿ってどうなんだろう。しかも真剣。
その姿を想像して、小さく吹き出した。
自分の頬が緩むのがわかる。

しかし、吹き出した事で気分を悪くしたのか、彼はふてくされてしまった。
いや、すねたって方が正しいか?

「いらないならいい。持って帰る!」
「だめだめだめっ!もう私の物になったんだからっ!!」

勝ち負けのない、たわいのない言い合いだが、あえて勝敗を決めるならもちろん私の勝ちである。

上機嫌で歩く私の横で、ふてくされモードの彼が何かに気付く。

「どうかした?」
その場にしゃがみ込んだ彼の横に私もしゃがむ。

「…………これ」

渡されたのは
「………クローバー?」
「その…、プレゼントに…。
……………って!普通こんなのいらないよな………四つ葉ならまだしも、ただの三つ葉だし。ごめん、その、俺………
こんなで。」

「そんな事ない!」

思わず叫んでしまった。
自分自身に驚きだ。

「う…嬉しい、です」

真剣に選んでくれた本も、この三つ葉も。

「ありがとう」

彼の手から三つ葉のクローバーを受け取った。

「すごい大切にする」
「ん」
彼の顔が赤くなった。

「本も、嬉しかった」

「……………笑ったくせに」



しばらく歩いて、その後手を繋いで帰った。



優しい時間を心地よく感じながら、
"彼の誕生日プレゼント、私も何かの写真集にしようかな。"
なんて事を考えていた。
怒るかな?それとも笑ってくれる?

でもきっと、喜んでくれるんだろうな。

そう思ったら自然と頬が緩んでしまった。




いつも有難う。
これからも、よろしく。


願わくば、そう思ってるのが私だけじゃありませんように。


      *end*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ