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□『幻想空間』
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「ここは何処だろう」
そう呟いたのは僕だろうか?それすらも判らない。

周りはまるで黒の絵の具で塗り潰したような暗闇だった。
足元には黒いタイル。
僕は1歩前に進む。否、この表現は不自然かも知れない。なぜなら僕には、前がどちらなのか判らないからだ。
―…パシャン…―
「これは、僕の足音…?」
その場には不釣り合いな音が鳴り響く。辺りには水などなかったはずなのに………

1歩進むたび、水の上を歩いているような音。だが足元には闇色のタイルがあるだけだ。

「僕はタイルの床を歩いている」

「なのにこの足音は何なんだ?」

周りに人などいない。それでも僕は話し続ける。
ただ怖かったのだ。
なぜなら、この深い闇色の世界に、溶けそうな気さえしていたから………

「僕は不安になっているのか?」
僕は今この世界に存在している。しかし、この世界が今までの鮮やかだった世界に存在しているとは、どうしても思えなかったのだ。
「この世界はおかしい」
「いつからこの世界にいる?」
「否、最初から…?」
答えのない問いを問い続ける。この行為に意味などない。

それは突然の出来事だった。
―…ぬるッ…―
さっきまで感じなかった感覚が僕を襲う。
足元を見ても、"ぬるッ"と音を奏でるものなどないハズだ。否、ないハズだった。

本当に?

ポタッ 足元に落ちゆくソレは、闇色の世界には鮮やかすぎる。
少し生暖かく、僕の身体をつたい足元に赤い水たまりを作っていく。

なぜだろう?目をそらせない。

「これは血か?…誰の?」

「僕の………?」

あぁ、この生温かい液体の感覚に、僕はひどく安心した。

なぜならソレは、この世界で唯一のリアルだったからだ。

今、あなたに問おう。
その闇色の世界に、あなたは行ってみたいでしょうか―…?

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