小説

□『キスより先にだきしめて』
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『キスより先にだきしめて』
空がほんのり赤く染まり始めたころ
俺はゆっくり歩き出していた
「今日は夜に仕事が入っちまってるから宵風の面倒頼んだぜ!」
とかいう雪見さんの頼みで俺はそのアパートに向かっている最中である
「面倒くさ…」
とか口に出しつつ自然に早足になっていく
ホントは多分口元が緩んでる
だって宵風といられるんだもん…
ガチャリ
「お邪魔しまーす?」
合鍵でドアを開ければ壁は光が反射してオレンジ色に染まっていた
「宵風ー?」
返事がない
寝てるのかな?
「よいてー?寝てるの?」
ふと目線を落とせば黒い人がいた
「すぅーすぅー」
寝息を出しているので死んではいないみたい
「ビックリしたぁ…」
動揺が落ち着いて少し安心したのでため息をついた
「焦ったよ…」
と独り言を呟く俺と、その隣りで「ーん…」と寝言を言う宵風
「よ・い・て」
フッと息をかけてもびくともしない
床冷えないかな?と思いつつ起きない恋人の隣りに座っては頬をつつく
「おーい」
やっぱり返事がない
今度は頬を軽くつねってみた
「…」
ダメだこりゃ、と思い一人静かに沈んでいく夕日を見上げた
本心から言うと、起きてほしいけど、こうやって好きな人の寝顔を
“一人じめ”
出来るのもいいかもと思った
「キスしちゃえ」
ほんのいたずら心から始める
最初は頬にちゅ、っと
「…」
反応なし
次に額に
「…」
やっぱりダメ
続いて唇にしてみた
「…ん」
と言っては少し寝返りを打った
「あ、そっち壁…。届かないじゃん、宵風のバカ」
唇や顔にキスしようとすれば必然的に宵風の上に乗っからなければならない
「うーん、起きないよね?」
と言いながら、ちょこんと乗っかった
いつも宵風は俺の首筋にキスしたりするな…と思い出し、セーターをめくり僅かな隙間にキスをする
…ダメだ、どうしよう
急に不安が込み上げてくる
「宵風…起きてよ…」
噛み付いてみたりしたけど…
やっぱり無反応だった
ホントに死んじゃったみたい、と思ったら涙が出てきた
「うっ…はっ止まらない、よぅ…」
いつもみたいに優しく抱き締めてくれる宵風がいない…
だから自分で自分を抱き締めた
ぽたっ
俺の涙が宵風の頬に落ちていった
「宵風…。よい、てぇ…」
泣きながら頬にキスした
「起きてよぉ…」
“一人は寂しいよ”
鼻をすする音が響く
最後に唇にキスをしようとした
もし、起きなかったらどうしよう
俺はどうすればいいの?
書き残ししようかな
一人では居づらかったから
…でも残された宵風は?
隣りで寝た方がいいのかな
ねぇ聞かせてよ…
宵風が今思ってることを…
隠した想いを俺にみせてよ…
「おきて、くれる…?」
小さな願いを込めて冷たい宵風の唇にもう一度キスをした
「…っ」
…もう…
「俺の気も知らずに寝ちゃって…。宵風なんか、キライ…」
不意に笑みがこぼれる
さっきまで呆れてたのに…なんでだろう、涙も溢れてくる
「愛しいんだ、よ…君が」
その時だった
「みは…る…?」
そう、俺の名前を呼んだ声が聞こえた
俺の大好きな人の声がした
「よい、て…?」
俺は思わず目を見開いて息をするのを忘れた
「ないてる…の?」
ゆっくりと伸ばした手で俺の涙を拭ってくれた
優しいぬくもり…
「いつもの、宵風…だね」
「…?」
俺は宵風に抱き付こうとした
「…みはる」
「…え?」
「僕の寝込み…襲ったの?」
「あっ!」
俺は宵風に乗っかりっぱなしだったことを思い出した
「ち…ちがうよ!誤解だってば!宵風を起こそうとしてっ」
目にいっぱい涙を浮かべて否定した
「…じゃあ」
「な、に?」
「この噛みあと、なに?」
と聞かれた
「あ、えっと…」
ヤバい、言い逃れ出来ない
「壬晴」
「…はい」
「覚悟して」
「…うん」
いつもなら嫌だって言うはずなのに今日は嬉しかったのか笑顔で頷いた
その反応をみて宵風も笑った
「僕も壬晴にキスしたい」
「いい?」と聞く宵風
「うん。俺、散々しちゃったから」
と照れながら自白した
…?
俺は宵風が起きたら一番に何してもらおうと思ったんだろう…
「あ、待って!」
思い出したからつい叫んでしまった
「なに?」と聞いてくれる優しい人
そうだ、俺が君にキスより先にしてほしいこと
それは…
「だきしめて、くれる?」
「…今日の壬晴は甘えんぼだ」
「いいよ」と俺を優しくだきしめてくれた
でも物足りなくて
「もっと…強く抱き締めて…?」
と口にしてしまった
宵風は少し首を傾げながらも力一杯抱き締めてくれた
「よいてをね、宵風のね、存在を確かめたかったの…」
少しばかり赤く染まった頬
それは宵風のせいだけじゃなくて、夕日のせいでもあるかもね…
「今日は壬晴を離さない」
「うん…」
「愛してるよ」とか「好きだよ」とか耳元でたくさんの愛の言葉を囁かれた気がした
でも俺は宵風の中に包まれているだけで良かったんだ…
「ずっとそばにいてね、宵風」
「壬晴は僕のものだから離さない」
君を一番に感じたいから
そのぬくもりの確かめ方は一つだけ
溢れる思いごと抱き締めて…









シリアスだったのですが壬晴の小悪魔ぐあいと宵風の甘さに負けちゃいました…
甘いのしか書けなくてごめんなさい!!
読んでくださった方
ありがとうございました♪

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