アリエスの離宮

□棄てられた仮面
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静かだな…。


自分の事なのに人事の様に漠然とそう思いながら、ルルーシュはソファーに深く身を埋めた。
ナナリー奪還に失敗したあの日から、既に数日。
護送艦から戻ってすぐに騎士団内の自室に籠り、一度も学園には戻っていない。
いつもならば作戦行動が終わり次第すぐに学園に戻っていたのに、そんな気すら起こらなかった。
むしろナナリーに嘘を吐いてまで、スザクに記憶が戻ったのを悟られまいと必死になっていた自分が、滑稽にすら思える。

あの日から姿を消した自分の事を彼はどう思っただろう。
彼にはもうバレてしまっただろうか。
そんな事を虚ろな頭でつらつらと考えていると、突如頭の中で
『…かもしれないな』
と言う声が反響した。
自分のそれとは似て非なる、いくらか低いよく通る声。
が、ルルーシュは特に驚いた様子も無く、傍らに置いた仮面を手で転がしながら目を閉じた。
「…ゼロ」
呟く様な小さな声で、しかしハッキリとその名を紡ぐ。
そう。
声の主は、黒の騎士団を率い、ブリタニアの崩壊を望む反逆者、ゼロ本人。
彼はルルーシュがギアスを手に入れた日に生まれた、半身。
ルルーシュの副人格と言える存在だった。
ルルーシュの願望によって生み出されたとは言え、ゼロの存在は既にルルーシュの中で確立されている。
本人さえ望めば表に出る人格を変える事はおろか、心中で言葉を交わす事も全てが彼らの意のまま。
だからこうして、誰もいない時には二人で会話をする事も少なくない。
けれど、あの日以来、言葉を交わすのは今日が初めてだった。
何度話しかけてもルルーシュが返事を返さなかったからだ。
その理由が何となく分かっていたから、ゼロも無理に話掛ける事はしなかったのだが…
暫くの間を置いて、ポツリ、とゼロが言葉を発した。

『…すまなかった』

…それは謝罪。
それはナナリーを連れ去る事が出来なかった事を指しているのか、自身の存在自体を責めているのか。
しかしルルーシュは、驚くほど淡泊に
「別に、良い」
と短く返しただけだった。
強がりで言った訳ではない。
ゼロを気遣った訳でもない。
只もう、ルルーシュにとって全てがどうでもいい事の様に思えた。

魔女と…C.C.と契約を交わしたのも、ギアスを手に入れたのも、全ては偶然だった。
けれど、この力があれば世界をかえられると、ナナリーの為の、優しい世界が作れると思った。

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