アリエスの離宮

□棄てられた仮面
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けれど彼女は言ったのだ。


ゼロは間違っていると。


いつかの、親友だった彼の様にゼロは要らない、と。


分かっている。

彼女はあくまで、「反逆者としてのゼロ」は要らないと言っただけで、「兄としてのルルーシュ」が否定された訳では無いと。


けれど、「ゼロと共にあるルルーシュ」も又彼であり、ブリタニアを壊す事は、紛れも無いルルーシュ自身の願いだ。

それを最愛の妹に否定された。

全ては彼女の為の世界を、とやって来た事が、全て無駄になる。


その上、行政特区日本をもう一度、などと。

自らに向かって伸ばされた、懐かしいその白い手が恐ろしいと思ったのは初めてだった。
父の事、スザクの事、ユフィの事。
トラウマが鮮やかに蘇り、彼女に被さる様にして見えたユフィの幻影には戦慄すら覚えた。

昔から、どこか似ている二人だったから。

彼女が怖くて、逃げる様にゼロに代わった。

彼女の手を取る事も、切捨てる事も出来なくて、全てをゼロに押しつけた。

結果は結局失敗に終わってしまったけど。

目の前でナナリーを連れ去ったスザクを憎いと思う反面、どこかホッとしている自分がいた。
ナナリーがゼロでもある自分よりも、自分を皇帝に売り払ったスザクを信頼している事より、ナナリーの側に居なくて済む事に安堵してしまった事が恥ずかしかった。

自分はこんなにも弱い存在だったのだろうか…
一度や二度の失敗で、立上がる気力も無くして。

「なぁ、ゼロ」
目を閉じたまま、ルルーシュはゼロに語りかける。
「実は明日、ナナリーに返事をしなくてはいけないんだ」
淡々と語る声にはいつもの覇気は無くて。
そこに見える諦観に、あぁ…とゼロはそれを理解した。
『分かった。全て私が引き受けよう』
哀しそうな、けれど優しく暖かい声に、すまない、とルルーシュは小さく謝った。
『何故謝る。私の一存で動いても?』
お前はそんな事を気にしなくても良いんだ、と言われている様で、ルルーシュはほんの少し口角を緩ませる。
「構わない。俺はもう、考える事に疲れてしまった」
何も考えたくは無い。
全てを投げ出してしまいたい。
何にも邪魔される事のないこの暖かな場所で眠りに付けたら。
「我が儘を言って済まない。俺は………」
人格が入れ替わる刹那、心の奥底へと沈んで行く瞬間に紡がれた言葉と、擦れ違い様に見せたルルーシュの鮮やかな笑顔に
しかしゼロは哀しそうに目を伏せた。
強く握り締めた手のひらに爪が刺さり血が滲む。
「そんな事は、無かったよ…」
悔しさや哀しさが滲む声で紡がれた言葉は、誰もいない部屋の中で静かにこだました。

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