◆キリ番の作品

□一万Hit記念部屋
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短いです。
足跡が2万になる前にUPしなきゃ企画(ナニソレ)

打ち上げ花火

<※「〜その後」の6話と7話の間の話かと思われます。……たぶん


 ロトの勇者の末裔が、邪神復活を目論む大神官ハーゴンを討ち、世界に三度平和が戻ってから、13年。
 ロトの<剣>と呼ばれたローレシア王国では、英雄王アレンが即位して10年の記念祝典が開かれていた。
 ローレシアの街に酒が振る舞われ、街は常以上の人でごった返している。
 王城での厳かな式典が終了した後、街を一周する国王一家のパレードは万歳の声に包まれて、進んで行く。
 きらびやかな騎士達、賑やかな音楽、人々の歓声や花吹雪に、幼い第一王子はそわそわと落ち着きがない。

「アレフ、じっとなさい」

 馬車の中から群衆ににこやかに手を振りながら、マリアは小さな声で息子をたしなめた。
 はい、おかあさま。と返事はしたものの、やはり外が気になる様子の息子に、アレンはくすりと相好を崩した。

「おいで、アレフ」

 膝の上にアレフを抱き上げた。窓の外がよく見える。わぁ、と歓声を上げたアレフに、アレンは笑った。

「あ、あなた」
「いいから」

 もう、とため息をついたマリアも、そんな父子を優しい眼差しで見つめている。

「街のみんなもアレフが見れて嬉しいさ。ほらアレフ、みんなに手を振ってごらん。僕は大きくなりましたよ、って」
「はい! 父様!」

 言われた通り、元気に手を振ると、馬車を見送る群衆から一層高い声が上がった。

 酒を酌み交わす男達は、今日何度目かの乾杯に「王太子殿下のご成長に乾杯!」「我らがアレフ様に栄光あれ!」とジョッキをうちならした。

 どこかで、気の早い誰かが花火を打ち上げる音がした。



 一日の予定を済ませ、部屋のバルコニーからアレンは花火を眺めていた。
 ハーゴンとの戦いに際し、一度は空になったローレシアの国庫も、この十年でここまで回復したのだ。
 国王として、こんなにも誇らしく嬉しいこともない。
 アレンやアレフの誕生日、解放記念日にも花火は上がる。けれどこんなに盛大に打ち上げられたのは、12歳の頃のロト祭以来ではないだろうか。
 あの年は確か、ラダトームとデルコンダルの間に不可侵条約を結んだ年で、特に盛大な祭となっていたのだ。
 心に蘇るのは子供の頃、セリアとお忍びで行ったラダトームの夏祭り。
 あの夜も、色とりどりの花火が、夜空を明るく照らし、古いラダトームの石畳に、二人の影を濃く映し出していた。


 楽しそうにはしゃぐセリアが僕の脇を走り抜けて、髪の香りが弾けた。少し先でくるりと振り返る君の笑顔が眩しくて、真っすぐ見つめることが出来なかった。
 あんなに胸が騒いだのは、多分祭のせいだけじゃない。
 人込みの中、はぐれないように繋いだ手から伝わる鼓動。君の熱。
 その手を離すことはないと思っていた、12歳の自分達。
 祭の熱が、花火の幻想的な光が、いつまでも醒めない夢のように思えた。
 君がいたあの夏は、もう遠い夢の中でしかない。
 僕らの恋は、あの花火のように、跡形もなく消えてしまった。


「…アレン様」

 夜空を見上げ、物思いにふけるアレンに、マリアは控え目に声を掛けた。
 アレンは妻を振り返り、おいでと瞳で誘う。

 おずおずと隣にやってきたマリアに微笑みかけ、その華奢な体を抱き寄せる。

「今日は、夜通し打ち上げるそうだよ」
「煩いと文句を言われないといいですけど」

 アレンに体を預けて、マリアはくすりと笑う。
 文句を言ってくるとすれば、マリアの実家くらいのものだろうが。

「いわせておけばいいさ」

 来月にはサマルトリアでも新王の即位式が行われる。今日のローレシアに劣らぬお祭り騒ぎになるのは想像に難くない。

「悔しかったらやってみろ、って、コナンには言うよ」

 にやりと悪戯っ子のように嬉しそうな夫に、マリア「まぁ」と口に手を当てる。妻の額に口づけて、アレンは優しく笑った。

「疲れたろう? もう休もうか」

 寝室に誘う夫に、妻は恥じらいを見せつつ頷く。
 結婚して11年。子をも成した仲なのに、いまだ睦事に初心な妻を可愛いと思う。
 細い体を抱きしめて、消えた夏の夢を頭の片隅に追いやった。
 もう12歳の子供じゃない。いつまでも祭の熱を引きずっては生きられない。
 今は、マリアがいる。アレフがいる。
 それが全てだ。

 小さな顎を上向かせ、唇を重ねた。
 重なる二人の影を、夏の花火が濃く縫い付け、瞬きをする間に消えていった。






【あとがき】
同タイトル「打ち上げ花火」より。
アニメ「今日の5の2」のEDを見ていて、これはまさしく!と燃えた覚えがあります。出来上がってみれば、ただの思い出話。しかも時間背景が微妙におかしいような…。自分で書いてて時間背景がわからなくなるとは、情けない話です。

過去に縛られた男アレン。お前に未来はないぞ!?(マテ
しかしまぁ、マリアも、よくこんな男、見限らずに愛し続けてくれるよなぁ。
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