◆キリ番の作品
□ときめきのキリリク
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うらはら−蘭世
「ばっ、誰がお前みたいなガキ相手にその気になるかっ!」
ぐさっときたなぁ
ここ最近では一番の切れ味だったよ。真壁くん。
わかってるよ。
わたしって子供っぽいよね。
いつも自分のことばっかりで、真壁くんにガキって言われても仕方ない。鈴世のほうがよっぽどしっかりしてるもん。
幼児体型だし…
服装だって、大人っぽい服なんて持ってない。
ああ、ダメよ。
あの時、お母さんの服を着てたもの。それでもガキって言われたんだわ。服装ごときじゃ何も変わらないんだ。
髪型を変えたら、少しは変わるかしら…?
でも、パーマをかけるお金なんかないし。第一お母さんが許してくれるはずがないわ。
あーあ。今の私で出来ること、なにかないかなぁ
なんてことを思っていた矢先だったの。
あの人がうちに来たのは。
『ランゼ、これを君に』
何を言ったのかは解らなかったけど、大きな箱をもらったの。あの人、とても優しい眼をしてた。
「真壁くん…」
「服、みたいだぜ。着てみなよ」
「う、うん」
服?
なんてタイムリーなんだろう。
よく知らないけど、多分ブランド品よね。包みからして高そうだわ。
でも…
真壁くんに、贈ってほしかったな、なんて…
無理よね。こんな高いもの。
ううん。値段なんか関係ないの。身につけるものはなんだって、真壁くん以外の男の人からはもらいたくなかった。
あの人の事は、少し怖いけど嫌いじゃ、ない、と、思う…。
でも、だからこそ、あの人から何かもらっちゃあいけない気がしたの。
落ち着いた綺麗な色使いの、シックなワンピース。ハイヒールもイヤリングも一揃えで入ってる。
こんな高そうで大人っぽい装い、子供の自分に似合うわけがない。そう思ったの。
でも…
「わ、シック…」
鏡の中のわたしは、自分でも赤面しちゃうくらい素敵で、大人びて。
そのワンピースはよく似合ってた。
この服を、我ながら自分に似合うこの服を、あの人に贈られたのがなんだか悔しい。それ以上に、真壁くんに「着てみろ」って言われた事が悲しかった。
サロンに出ると、鈴世とペック、それから真壁くんも待っていてくれた。
うう…。恥ずかしくて真壁くんの顔、見れないよぉ…
「うわぁ、お姉ちゃんじゃないみたいだ!」
言葉の意味はさておき、鈴世とペックは歓声をあげて褒めてくれた。
真壁、くん、は…?
「こんな、カンジ…」
スカートの裾を摘んでチラリと表情を伺う。こんな時、わたしにも真壁くんの考えが読めたらなぁ。
「いいんじゃねぇか? 似合うぜ?」
…あ
「違うもん! やめてよ!」
「江藤?」
見るんじゃなかった。
真壁くんの、顔なんか、見なければよかった。
ううん。
こんな服、着るべきじゃなかったのよ。
じわりと込み上げてくる涙を抑えることが出来ない。
「そんな冷めた目で見ないでよ! どうしていってくれないの? ″そんな服着るな″って! わたし言ってほしいのに!」
わたし、何を言ってるの?
何をしているの?
手首を掴まれて、すぐそばに真壁くんの顔がある。本能的に拘束を逃れようと腕を引くけれど、腕はぴくりとも動かない。
「本気でそう言っているんなら、わたし自分が恥ずかしい」
期待してたの。
いけないことなの?
見上げればすぐそこに真壁くんの顔があるのに、彼の瞳はわたしを見ない。
どんなに着飾ったって、きっとこの人はわたしを見ない。
「またひとりでいい気になって、一人相撲演じて…」
「だったら!」
……え?
「だったら″これどうしよう″なんておれに聞くな! おれを感情に走らせるな! 何をしでかすかわからねぇ…っ」
ジャッ
ばさっ!
「たまには感情的になって見せてよ!」
何を口走ったのか。
彼が何を言ったのか。
わからなかった。
躊躇いか
苛立ちか
もしくはまったく別の何かなのか
ぐちゃぐちゃだ。
もう訳がわからない。解りたくもない。
こんなことになった原因の服も指輪も、あの人に関するものは全て煩わしくて脱ぎ捨てた。
とにかくここには居たくなくて、逃げ出して安全な場所に隠れたかった。
鈴世と真壁くんの声が聞こえたけど、構わなかった。
なにより構ってられないことにはすぐに気付いた。
だって!
わた、わた、わた、わたしったらなんて恰好!?
きゃーーーーーー!!!
ばかばかばか!
真壁くんのばか!!
蘭世のばかーー!!!
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