◆キリ番の作品

□ときめきのキリリク
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明暗 〜ラストバトル〜


「蘭世ちゃん、結婚おめでとう!」

と、笑顔で告げたその口で、一秒後には

「真壁、あんた何勝手に結婚とかしてるわけ?」

と新郎に喧嘩を売る。

 仕事の都合でどうしても式には参列出来なかったのだと、涙ながらに非礼を詫びたその女の存在を、オレはいまひとつ掴みきれずにいた。

「なぁ、おい。アレ、やばいんじゃないのか?」

 式での神谷に引き続き、披露宴ではこいつ。
 真壁って実はオレの知らないところで女たらし?
 隣のゆりえに囁くと、ゆりえは眼をまんまるくして、それからぷっと吹き出した。
 なんだよ…

「ばかね。克。そんな訳無いでしょう?」
「いや、だってよぅ」

 今も真壁はその女と痴話喧嘩のようなものを繰り広げている。修羅場、ってヤツじゃないのか?

「修羅場といえば修羅場かも」

 やっぱり!?
 声はテーブルを挟んだ向こう側からした。
 顎に指を当て、うーんと考えるそぶりの小塚さん。真壁と江藤とは中学からの同級生で、高校はゆりえと同級だった。
 彼女の隣には、何故か俳優の…なんつったっけ、そう! 筒井圭吾が座っている。なんか親密。そういえば、結婚式にも出てたっけな。
 あいつらも顔が広いよな。

「修羅場?」

 面白そうに口を挟んだ筒井圭吾に、小塚さんはくすりと笑って見せる。
 あ、そういうこと。
 その笑顔でわかった。この二人は付き合ってるんだ。どんな出会いなんだろうと、興味が沸いたが、今聞くことではないだろう。
 二人がこのまま結婚することにでもなれば、新婦の友人としてゆりえが招待される。そのときになればいやでも耳にはいるはずだ。
 ま、それまでにオレらが一緒になってたら、の話。
 たは〜、弱気だ。オレ。

「真壁が蘭世ちゃん以外に? ありえないね」
「それはそうよ。そんな事言ったら富樫さんに怒られるわ。富樫さんが大好きなのは蘭世の方だもん」
「はあ?」

 事もなげに言った小塚さんに、オレは情けない顔になってしまった。
 眉を奇妙に寄せて、顎が抜けたようにぽかんと口を開ける筒井圭吾と同じようなカオになっているんだろう。

「…えっと」
「普通の子よ? 彼氏いるし」
「でも蘭世さんが絡むとムキになるのよね」

 ゆりえと小塚さんは顔を見合わせた。「ねー」と息ぴったりだ。
 うう、よくわからん。

「蘭世って同姓にもてるのよ」
「もし真壁君が蘭世さんを泣かせたりして、それが富樫さんの耳にでも入ったら、彼女」
「あたしが嫁にもらう」

 うわっ!
 いつの間に?

 女らしく着飾っているはずなのに、今めちゃくちゃ男臭く笑ってなかったか?

「先輩方お久しぶりです!」

 真壁とやり合っていた時とは偉い違いだ。
 にこりと裏表なさそうな笑顔で富樫さんとやらはオレ達に挨拶した。
 どうやらゆりえとは面識があるらしい。当たり前か。江藤繋がりだもんな。

「仕事だったっんだって?」
「そーうなんすよ。蘭世ちゃんのドレス見たかったのにぃ」
「ふふ。綺麗だったわよ。写真送るわね」
「うわー! ゆりえさん最高! 大好き!」

 きゅっとゆりえに抱き着く。
 背丈が小さい癖にやたら元気でうるさいやつだ。

「やたら早く結婚しましたよね。出来ちゃったのかって、思わず聞いちゃいましたよ」

 ぶっ!

「ちょっ! 勘弁してくださいよ、日野さん!」
「おまえが変な事言うからだろが」

 なんつーこと言うんだ。この女。

「え、だってまだ22ですよ。蘭世ちゃんなら、もっといい条件の男が見つかるでしょうに、やけに式を急いだ感があって」

 披露宴で言うことなのか?
 オレはちょっとむっとして、注意しようと息を吸い込んだ。

「あら、東洋チャンプじゃ不服?」
「江藤蘭世の相手には世界タイトルが相応しいでしょ」

 ニヤリ、と自信に満ちた笑みが幼い口元に浮かぶ。
 あ、なんだ。そーゆーこと。

「富樫さんの仕事って? 何してんの?」

 ちょっと引っ掛かってた。もしかしたら…

「雑誌の編集です。まだペーペーですけど」

 といって差し出された名刺には、見慣れたスポーツ雑誌のロゴ。
 やっぱりな。
 真壁の取材記事はどんな小さいものでもチェックしてた。最近やたら突っ込んだ記事があって、おかしいと思ってたんだ。こいつが絡んでたのか。

「6月にはでっかい特集組みますよ。新世界チャンピオン誕生って」
「簡単に言ってくれるぜ」
「お、真壁」
「よ、忙しいのに悪いな。わざわざ」
「なに言ってんだ。祝い事に遠慮は無用だぜ。お前のタキシード姿なんて、こんな席でもなけりゃお目に掛かれないしな」
「言ってろ」

 挨拶周りが終わったんだな。
 奥さん連れて、真壁が立ってた。
 人付き合いの苦手なこいつが、関係者だけとはいえしっかり挨拶周りしてる。大人になったねぇ、俊クン。
 実は照れてるだろ?

「ごほっ」

 時折、こっちの考えが聞こえてるんじゃないかってタイミングでリアクション起こすよな。こいつ。
 野性のカン?
 そういうもんがないとチャンピオンになんかなれないのかもな。

「簡単に言うに決まってるじゃん。世界戦の前に挙式してんだもん。びっくりしたよ。しかもデンゲキ入籍」
「ごめんね、梢ちゃん。忙しかったのに」
「違うよ! 蘭世ちゃん! 蘭世ちゃんの結婚式だもん、たとえなにがあってもあたしはお祝いにくる! 呼ばれなかったら泣いちゃうよ!」

 新郎から奪うように新婦の両手を取る女。
 何だこの絵面…

 ひしと抱き合う女ども。真壁は笑うしかねーよって感じで笑ってた。男三人目があって、オレも筒井圭吾も、多分同じ気持ちでハハ…と少し笑った。

「で、だよ。真壁」
「ああ?」
「あたしは上司と賭をしたのさ」
「おう…?」

 まだ江藤の手を握ったまま富樫が真面目な、というよりは挑戦的な顔で真壁を見上げた。
 真壁を呼び捨てにする女なんて初めて見たかもな。

「あんたが世界戦負けたら、あたし一ヶ月有休もらうから」
「は?」
「んで、蘭世ちゃんはあたしと旅行に行くんでよろしく」
「はあああ?」

 ぶはっ!
 思わず吹き出しちまったよ。ゆりえも小塚さんも笑いを堪えてる。筒井圭吾なんかテーブルに突っ伏して肩震わせてるし。

「蘭世ちゃんとお出かけなんて久しぶりだな♪ あたしまとまった休み取るの1年振り〜♪」
「え? ええ?」

 江藤はうろたえてる。
 休み取れてよかったね、とか、友達と一緒に遊びに行けるのは多分素直にうれしいんだろうな。

「何勝手に決めてんだよ−−って一ヶ月ずっとか!?」
「あったりまえじゃーん♪」

 おーおー、真壁も大分うろたえとる。
 突っ込む場所はそこじゃないだろ。

「あ! そうだ。なんでおれが負ける方に賭けてんだよ!?」
「んー? じゃんけん?」
「負けてんじゃねーよってか擦り寄んな! 相変わらずお前はっ」

 江藤をだしにからかうと面白いのは知ってたが、こういう方法があったのか。新事実だな。ま、オレには出来ん技だが。

 悪びれもせず富樫は声を立てて笑い、豪を煮やした真壁に頭を掴まれても江藤の腕を抱えたまま笑い続けていた。




 −−後日、背水の陣で挑んだ世界タイトルマッチを、真壁俊は鬼神のごとき強さで勝利したのだった。



→明暗おまけ
【あとがき】
原作にはなかった結婚披露宴をオールキャストで。
日野君視点で真壁君をいじってみました。

筒井×かえでは、もはやオフィシャルといってもよいでしょう!
Tokimeki Cafeさんで萌を養った身としては!!(笑)
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