◆キリ番の作品

□DQキリリク
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「04.先延ばしにしてきた報い」

※「そんな顔もするんだね」の時、ディ。


 リリアがレイモンドの部屋で、レイモンドに迫っているのを見てから、なんとなく雰囲気がおかしい。
 原因はわかっている。おかしいのは主にアレクシアだ。というか、アレクシア一人がおかしい。
 セイやディクトールの事は男として意識していなくても、レイモンドの事は無意識に意識していたのだろう。それを、あの一件で自覚したに違いない。
 セイも街中で女と消えることがあったが、相手は商売女だった。レイモンドは違う。自分では決して口説かないのに、いつの間にか居なくなっている。そんな事が何度かあって、その度にアレクシアの態度は微妙に変わっていった。
 決定的だったのは、メルキドでの事だ。
 レイモンドと女の間に、アレクシアが割って入ったのである。

「アル?」

 アレクシア自信、自分の行動が信じられないという顔をしていた。
 驚いてリリアとディクトールが顔を見合わせた時、泣きそうに顔を歪めたアレクシアが店を飛び出していった。ディクトールが追おうと足を踏み出すより早く、レイモンドが走り出していた。
 成す術なく立ち尽くすディクトールに

「振られたわね。お互い」

リリアは、そう軽口を装って言ったけれど、その表情は固い。

「そんなんじゃないよ」
「いい子ぶらないでよ! 丸解りじゃない!」

 吐き捨てて、リリアも出て行った。

 一人残されたディクトールは、酒場の隅の席で酒を頼んだ。
 安い酒が体内に回り出す頃、何の気無しに目をやった鎧戸の隙間から、レイモンドに肩を抱かれて戻ってくるアレクシアが見えた。

「丸解りか…」

 踏み出す勇気がなかった。幼なじみのままでも側にいられるならよかったのだ。気持ちを伝えて、側にいられなくなるほうが辛いと思っていた。けれど現実は違った。誰かの隣で微笑む彼女を見るほうが余程辛い。
 見つめていれば、側にいれば、気付いてくれると、無視のいい期待をしていたのだ。意気地のない自分に言い訳をして。
 今だって、笑っていてくれるならそれでいいなんて、自分を納得させようとしている。

(こんな思いをするくらいなら…)

 どちらにせよ、彼女の隣にはいられない。だったら、せめて伝えればよかった。
 後悔は、いつだって取り返しがつかなくなってからだ。
 自分をごまかして、他人を欺いて、そして少しずつ、自分が歪んでいくのがわかる。
 心のひずみに生じた影が、濃く、深くなっていく。
 彼女の側にいれば、彼女の強い光があれば、その影は飛ばされてしまうと思っていた。けれど現実は違う。より強い光は、より濃い影を生んだに過ぎない。

 明けない国で神官は、光から目を背ける。
 この胸の痛みは、惰弱な自分への報い。




「君が涙で滲んだ」

※「先延ばしにした報い」のリリア


 酒場を出たはいいが、開いている店は酒場兼宿とその地下にあるカジノくらいだ。
 酒場に戻る気にもならず、なんとなくカジノに足を向けた。
 カジノでも、酒は飲める。
 ワインを傾けながら、廻るルーレット板を見ていた。
 ディクトールには、ああ言ったけれど、自分も彼を責められるような立場にはない。
 初めからわかっていたから、決定的な言葉を告げなかった。彼女との関係が壊れるのが怖くて、彼女にも自分の気持ちは言っていない。
 そもそも、自分が本気になるなんて、思っても見なかったのだ。
 狭い田舎町から連れ出してくれるなら誰でもよかった。
 四人でいることが心地よかったから、いつまでも一緒に居る理由がほしかっただけだ。

(レイじゃなくても良かったのよ)

 アレクシアが男で、自分を選んでくれたなら、それが一番良かったのだけど。それが無理だと知ってからは、アレクシアの力になりたいと思った。
 ずっとつるんでいくには、誰かと一緒になるのが一番自然で確実だと思ったのだ。

(セイは、勝手にどこかにいってしまったし…)

 互いに何も言わなかったけれど、結構気に入っていた。粗野な男だったけれど、いいやつだった。

(だから、レイモンドじゃなくても、誰でもよかったのよ)

 酔っ払いが一人、声をかけて来た。冷たく一瞥して追い払う。
誰でもいいと言っても、容姿も、才能も、あれだけの男を見てしまったら、普通の男は問題外だ。男を追い払うのも三度目になった時、面倒になって外に出た。

 当てもなく街中を歩いて、ふと見慣れた二人連れに目が停まる。目立つ二人だというのもあるが、何より、金髪の片割れを目で追うのが習慣になっていたからだろう。
ただ、今は見たくなかった。

(レイじゃなくても良かったのよ)

心の中で、言い聞かせるように繰り返す。
見たくないのに、視線を外すことが出来なかった。

(誰でもよかったの。本気なんかじゃなかった)

視線の先で、寄り添う二人の姿が涙で滲んだ。
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