◆キリ番の作品

□DQキリリク
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※本編と設定、性格が少々異なります。なんたって、本編でレイモンドが出てくる前に書いた話だから( ̄▽ ̄;)
9000Hit DQ3 お題で恋愛ネタ


10. 今日は離れてやらない


「なんでそんな言い方!」
「お前が言い出したことだろう!?」

 見慣れたやり取りに、リリアはほぅとため息をついた。
 親同士がどうであれ、子供同士はなにかにつけてぶつかっている。
 リリアが見る限り、絡んでいるのはレイモンドのほうで、アレクシアのほうは全くの被害者だ。口では勝てないアレクシアが、かといって撲る訳にも行かず、いつも引く。

「もういい!」

 ばんっとテーブルに手をたたき付けてアレクシアが立ち上がった。そのまま仲間達を振り返る事なく酒場を出ていく。
苛々とぶつけ所のない怒りを堪え、気持ちが落ち着くまでみんなのところへは戻ってこない。
いつもの事だ。
レイモンドが部屋へと引きこもり、オロオロした揚句、ディクトールがアレクシアの後を追うのもいつものこと。
 残されたリリアは、しばし考えた後に、レイモンドの部屋を訪ねた。

「ねえ?」

 声をかけると、さっきまでアレクシアをやり込めていた男とは別人のような優しい笑顔が出迎えた。

「なに?」
「飲まない? 付き合ってよ」

 レイモンドの返事を待たずに部屋に滑り込み、持参した酒瓶を強引に押し付ける。
 困ったように肩を竦めただけで、レイモンドはリリアを拒みはしなかった。



「ねえ、知ってた?」

4杯目を飲み干して、リリアはぐい、と身を乗り出す。

「アレクにだけ、やたら絡むよね。他の人にはすごく紳士なのに」
「そうかな?」
「そうだよ」

 肩を竦めて酒を含むレイモンドの腕を、豊かな胸に抱え込み、酔ってほのかに赤く染まった肌を、わざと開けてみる。
 コトリと小さな頭を預けてしな垂れかかっても、レイモンドは眉も動かさない。

(悔しいなぁ…)

 女としての魅力には自信がある。
 アレクシア一筋のあのディクトールでさえ、リリアの前では素直な男の反応を見せてくれるのだ。
 ほぅ、と息を吐いて、整った男の横顔を伺う。誰に対しても、いつも優しい彼は、詰まるところ誰に対しても感心を持っていないということだ。アレクシア以外の誰にも。

(まったく、どいつもこいつも…)

 自分も含めて、アレク、アレク、だ。

「酔ったのかい?」

 腕にしがみついたまま黙り込んだリリアに、レイモンドが静かに問う。胸元が覗けているはずだが、相変わらず表情は変わらない。

「ううん?」

 頷くでも否定するでもなく、曖昧に返す。にこりと無邪気に笑って見せて、腕に頬を擦り寄せる。
 どんなにわかりやすく好意を示しても、「皆が望む英雄」の顔を崩さない。それなら、せめて、今だけは、酔いに任せて甘える事を許されるなら、今夜はこの手を放してやらない。
 いつかこの男の仮面をはいで、本当の笑顔を向けさせてやる。
 それが自分に向くに超したことはないけれど。




17. 痛みを伴う予感

※「今日は離れてやらない」の続き、レイに絡まれて頭を冷やしたアルが見たもの。


 あてもなく街中をふらつくアレクシアの斜め後ろには、いつの間にか長身の青年が歩いていた。控え目に寄り添う姿はまるで従者のようだ。
 少し視線をそらせば、にこりと笑うディクトールに、つられてアレクシアも微笑む。
 そうしているうちに、頭も冷えた。
ディクトールには、人を和ませる何かがあるな、とアレクシアは常々思っていた。自分の旅についてこなければ、さぞ立派な神父になったろうと思う。
 幼なじみの出世の道を閉ざしてしまったばかりか、死地への旅に同行させてしまったことを、アレクシアは今でも悔いている。
 もう一人、自分の為に道を外れさせた友人がいる。彼にはどう償っても償い切れない。せめて、この旅の本懐を遂げたと彼に報告しなければならない。
その為にも、今は。

「戻る」

 短く告げると、あからさまにほっとした顔をするディクトールに、アレクシアは笑う。

「ディ。ありがと。いつも、ごめんね」

 困ったように微笑んで、ディクトールは首を振った。
 それから二人、並んで元来た道を戻る。

「あれ? リリア?」

 宿に着くと、いつも出迎えてくれるリリアが部屋にいない。首を傾げ、中に入らずそのままドアを閉めたアレクシアの背後で、ディクトールが息を飲んだ。

「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ」

 酷くうろたえて両手を振る。不信そうに近付くアレクシアから、ディクトールはドアを隠そうとしているようだ。より不信感を募らせたアレクシアは、ディクトールの体を押しのけた。

「あっ、ダメだよ!」

 ドアの隙間から覗き見えた光景に、アレクシアの心臓は跳ねる。
 痛い。

「アル…?」

 呆然と一歩後退ったアレクシアに、おずおずと声をかけてみたものの、続く言葉が出てこない。
 覗き込んだアレクシアの顔は見る見る真っ赤に染まり、ディクトールを弾き飛ばす勢いで自室に駆け込んでいった。


「アル」

 ベッドに突っ伏し、枕に顔を埋めたアレクシアに、ディクトールは控え目に声をかけた。

「…びっくりした…!」

 突っ伏したまま、長く息を吐くアレクシア。

「うん、僕も」

 扉に背を預けたまま、ディクトールもため息をつく。

「ディは、そのぅ…知ってた?」
「ううん」
「そぅ…」

 もぞもぞと起き上がり、アレクシアは膝を抱えた。ぼんやり天井を見上げ、もう一度息を吐く。

「びっくりした」
「うん」

 見たのはほんの一瞬なのに、脳裏に焼き付いてしまった光景。リリアには悪いなと思いつつ、初めて目にした光景は、あまりに衝撃的で、忘れられそうにない。
鼓動が早くなった為か、頭が痛くなって来た。

 少し落ち着いてくると、なんだか無性に腹がたってきた。

「無用心だよね! 鍵もかけないでさ!」

 腹立たしさの原因は、きっとそこにあるのだと思った。それに、仲間内でそんな関係になられたら、こちらとしても気を使う。
 そう独り言のように言ったアレクシアに、ディクトールはくすりと笑う。

「アルが怒ってるのは、そんな事じゃないよ」
「え?」
「僕、出掛けてくるけど、心配しないで。少し考えてみるといいよ」

 温厚な神官の唇に、寂しげで酷白な笑みが掠めたのを、確かめる暇もなくディクトールは背を向けた。


 ディクトールの気配が消えてしまうと、再びアレクシアはベッドに俯せた。

(考えろ、って何を考えたらいいんだろう…。痛い…)

 先程の光景が脳裏を掠めた。指先は冷えて、えもいわれぬ不快感に胸がつかえる。

(嫌だ…)

 何が?
 行為に対する嫌悪?
 否、見ず知らずの人だったなら、こんなに不快にはならないに違いない。

 こんな動悸と不快感には覚えがあった。
 セイと別れた時。
 アレクシアはぎゅっと体を丸めた。

(あ、私、不安なんだ)

 ただ、その不安の原因を理解することは出来なかった。
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