◆キリ番の作品

□DQキリリク
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かっこいいアレンを、とのご要望でした。うちのローレシア王子はへたれなんだよな…
 アレン、格好いいはずなんだけど。おかしいなぁ…(お前)

■青の王子 1

 ローレシア大陸の南に浮かぶデルコンダル島。
海賊達の根城でしかなかった島に、要塞都市が出来て180年余り。
海賊上がりの王家が統治する故か、海運業で成り立つ割にお国柄は粗野だ。
 世界救済の旅に出ていたロトの末裔達が、この王国を訪れたのは6代国王カイダル3世の御世だった。
 周知の通り、ロトの末裔たる王子達がデルコンダルを訪れたのは、開国よりデルコンダル王家に幸運のお守りとして伝わる、精霊ルビスの護符「月の紋章」を求めての事だった。
 お祭り好きなカイダル3世が交渉相手となったのは、はたして幸であったのか不幸であったのか。
 一晩の歓待の後、月の紋章を譲ってほしいと申し出たローレシアのアレン王子に突き付けられた条件は、獰猛なサーベルタイガーとの決闘であった。

「一人で?」
 騎士が相手の決闘でもあるまいに、一人で相手をすると言い出したアレンに、コナンとセリアは目を丸くした。
「お前、正気か?」
「もちろん」
 一人着替えを済ませた姿で、アレンはそれがどうかしたかと言わんばかりに肩を竦めた。
「勇気を示せと言われたんだ。3人掛かりでは卑怯者との謗りを受ける。難癖付けられて紋章を譲らないなんて事になったら困るだろう?」
「それはそうかもしれないけど…」
 アレン達の懸念は、紋章と外交を天秤にかけられることだった。
 王子の身分で応じられる事ではないし、縁談問題は個人的にも回避したい話題だった。
「さ、そろそろ時間だ。
せっかくらしい恰好したんだ。桟敷で見ててくれよ」
 コナンのひらひらした絹の衿をひっぱって、からかうように笑う。
「よせよ」
 笑っているのはアレンだけで、コナンは不機嫌だった。
セリアの眉も不安げに寄せられたままだ。
 おどけたように笑って手を引っ込めたアレンは
「セリアを頼む」
 すれ違い様、コナンにだけ聞こえるように囁いた。
 アレン個人の一番の懸念は、デルコンダル王の領土欲とそれ以上に王個人のセリアに対する執着だった。
 ムーンブルクが健在なころ、セリアをデルコンダル王の後妻にと望む使節を、何度も送っていた事は有名だ。
 アレンがいないうちに、セリアの身に危険が及ぶことだけが気掛かりだった。
 だから尚の事、コナンには彼女の側にいてほしいのだ。
 コナンはアレンの真面目な声色に驚いて、次いで親友の真意を汲み取った。無言で頷きをかわす。
「心配するな。行ってこい」
 ばしんっと叩いた背中は、驚くほどに逞しい。
 アレンは痛そうに顔をしかめたけれど、大して痛くないに違いない。
 隣り合わせで戦っているから気付かなかったが、魔法剣士である自分と、剣一筋の彼とでは、ここまであからさまな差があったのだ。
 コナンはそっと手を握りしめる。
 この背中に守られてきたセリアが、自分を選ぶはずはない。
 今更ながらに胸が痛んだ。
「気をつけて」
「いってくる」
 軽く抱擁して恋人達は離れた。
 失恋を自覚して久しいとはいえ、見ていて気持ちのいいものではない。おそらく二人とも無自覚でやっていることだから余計にたちが悪いのだ。
(ちぇ)
 内心で舌打ちし、コナンはアレンを見送った。 


 満員のコロッセウム。
 南国の強い日差しが、容赦なく闘議場のアレンに降り注ぐ中、宣誓文が読まれた。
 決闘の末に例えアレンが倒れたとしても、デルコンダルに責はなく、勝者には望みの褒美が与えられる。
 決闘前にアレン自身が署名した宣誓文だ。
 デルコンダル王の署名もされたそれを、民衆の前でサマルトリア王の名代コナンが保証人として署名し預かる様子が闘技場からも見て取れた。
 見上げると、桟敷席のセリアと目があった。
 不安げに佇む彼女に笑顔で手を挙げる。拳闘士のパフォーマンスと受け取った群衆から歓声が上がった。
 ひとしきりの歓声の後、王の合図で闘戯場に獣が放たれた。民衆の歓声は会場を揺らすほどに大きく響く。
(でかいな…)
 轟音も日差しも気にならない。
 ただ、目の前の獣に集中する。
 それはサーベルタイガーも同じなようで、こちらを強敵と認めたか、低く唸りをあげたまま襲ってくる様子もない。
 互いに隙を伺い、じっと機を待っている。
 焦れたのは見物していた人間だった。
 静かに様子を伺っていたのは最初だけで、次第にざわつき、野次を飛ばすようになたった。
「む、小僧め。臆したか! あ、いやいや」
 野次を飛ばしたデルコンダル王は、闘議場のアレンより、隣の少女の方が余程恐ろしいと肩を竦めた。
 主催者たるデルコンダル王はさすがに野次以外は飛ばさなかったが、会場へは野次以外の物が飛んで来た。
 実際それが合図となって、アレンと獣は動いた。
 客席から投げ込まれたゴミが、サーベルタイガーの背に当たった。
 驚いたのか、はたまた怒ったのか、サーベルタイガーの注意が上に逸れる。
 緊張の糸を切られた獣は、一気にアレンへ襲い掛かった。獣の恐るべき筋肉は、一動作でアレンとの距離を詰める。
 鋭い牙は、兜を着けていないアレンの頭に食いついた。客席から悲鳴が上がる。しかしアレンは、半歩下がってその攻撃を避けていた。悲鳴が安堵の嘆息に変わる。
 次いで獣の牙は、アレンの足を狙った。獲物の動きを止めて引き倒してから、息の根を止める。それが肉食獣本来の狩りの仕方だ。
 やはりアレンは、半歩身を引いてそれを避けた。ついでに無防備な獣の鼻面を蹴り付けてやる。
 ぎゃん、と獣が悲鳴を上げた。
 たまらず後ろへ大きく跳び退る。

「アレンのやつ…」
 桟敷席のコナンが、誰とも無しに呟いた。
 今までに3度、アレンはサーベルタイガーに攻撃する機会があった。
 最初のゴミが投げ付けられた時と、2度のサーベルタイガーの攻撃を避けた時。
 追撃をしなかった事で、コナンにはアレンがこれをショーとして演出しているのだと理解できた。
 セリアにもそれがわかったのだろう。先程とは違う意味で眉を曇らせている。
「大丈夫だよ。セリア」
 闘いを見世物には出来ても、命を弄ぶような真似はしない。そのような残酷さを、あの男は持ってはいない。
 肩に手を置いて笑いかけると、セリアもそうねと少し笑った。


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