◆キリ番の作品
□DQキリリク
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相互リンク記念
邂逅〜雷霆の勇者〜
「なぁ、おい、見たか?」
「……見た」
これ以上面白いものはないとでもいいたげに、背の高い男は一回り小さな青年に話し掛ける。話し掛けられたほうは苦虫を噛んだような表情。
ちなみに、男――セイが面白がっているのは、勿論青年――アレクシスことアレクシアの反応だ。
肩に回されたセイの腕を邪険に打ち払い、わざとらしく衿を直す。
「だからって、関係ないじゃないか」
平静を装ってはいるが、内心穏やかではない。それがわかっているから、セイのほうも大袈裟な態度でアレクシアをからかうのだ。
「えええー、いつの間にお前そんな心の広い大人になったの?」
「おまえなぁ…」
じと眼で睨んでやっても、セイの笑顔はぴくりとも動かない。
今度は人の頭の上に手を組んで、そこに顎を乗せている男に、何を言っても無駄だと判断して溜息をつく。閉じた瞼を上げた時、アレクシアはふっと上体を沈めた。そしてそのまま、勢いよく真上に伸び上がる。
「いっ? ――あぐっ!」
頭が痛くないわけではないが、顎をしたたかに打ったセイよりは遥かにマシだ。
しゃがみ込んで呻く相棒に一瞥もくれず、アレクシアは薄暗い酒場の戸口をくぐった。
そして真っ直ぐに、騒ぎの中心に足を向ける。
アレクシアの青い瞳の先に、アレクシアとよく似た装いの、けれど明らかにアレクシアより一回り小さな少年がいた。
(いや、あれは…―)
少年特有の甲高い声で、酔っ払いに担架を切る小柄な人物。
数年前の自分を見るようだと、思わず微苦笑がもれた。
その黒髪の少年が、自分と同じく男装した女であることを、アレクシアは確信していた。
「おいっ」
男にしては高い。だが腹に響くよく通る声で、アレクシアは声を発した。決して怒鳴るでもなく呼びかけたその声は酒場の喧騒のただ中にも消える事なく、その場にいたすべての人間が、戸口に立つ長身の二人連れを――アレクシアの後ろにはいつの間に立ち直ったのか、守護霊よろしくセイの巨漢が張り付いている――見た。
騒ぎの中心にいた少年――否、少女もまた振り返る。黒曜石の瞳が、収まり切らぬ怒りで爛々と燃えていた。射抜くような視線を、アレクシアは微笑で受け止める。そして改めて、少女を観察(見)た。
服装は勿論、髪の色も同じ。瞳の色こそ違えど、姉妹の様によく似ている。
「あなたも、こいつらの仲間か!?」
抜き身の剣を構える姿はなかなか堂に入っている。しかし、背後がお留守だ。更には剣を向けた相手が自分の手に負えるかどうか、それすら図れないようでは実力の程は知れている。
「いや?」
微笑みを浮かべたまま、アレクシアは少女との間合いを詰める。ごく自然な歩みで。
俄かに緊張を増し、剣を握る手に力を込める少女の脇を通過し、揺れる切っ先に指を添えて下ろさせた。
「う、わっ」
さして力を込めているようにも見えないのに、押さえられた剣はぴくりとも動かない。
驚愕の表情でアレクシアを見上げる少女ににこりと笑いかけ、直ぐさま視線をごろつきに向ける。
睨め付けられて、ごろつきどもは数歩多田羅を踏む。少女の背後から襲い掛かろうと思えば出来たはずだ。それをさせなかったのは、戸口に立ったままのセイが放つ殺気。それを感じ取れる程度には、ごろつきたちも経験は積んでいる。じっとり汗をかいて身動き出来ない。蛇に睨まれた蛙のように。
「見ない顔ばっかりだ」
アレクシアがからかうように呟いたのを合図に、ごろつきたちに向けられた殺気がふっと和らぐ。セイがカウンターで酒を飲み始めたからだ。ちょいちょいと少女を手招きしたが、少女は警戒の色を浮かべてセイを見るばかりで誘いに乗る気配はない。肩を竦めたセイはスツールに尻半分乗せて酒をちびちび嘗め始めた。
セイのことはほっといて、アレクシアはごろつきの顔を順に見、真ん中にいた男の上で、ひたりと目を止めた。
「わたしが相手になるが。まだ、文句があるか?」
男も、じっとアレクシアを見詰める。そして―…
「…―いや」
「アニキ!?」
「行くぞ」
ごろつきたちは連れ立って店を出ていった。舌打ちしたり、ぶつぶつと文句を言ったり、アレクシア達を睨み付けてくるのもいたが、一応その場は平和的解決を見た。
「さ、て…」
見れば少女は、ばつの悪い表情で所在なげに立っている。剣だけは鞘に納めたものの、それからのことを決めかねているようだ。
「余計な手出しだったかな?」
「べっ、べつに…っ」
知らない相手に礼をするというのも簡単にできるものではない。特に、この年代の若者にとっては。
自分も通過して来たことで経験がある。アレクシアはくすりと笑って、華奢な少女の肩を叩いた。びくりと、大袈裟な程に少女は体を震わせたが、それには気付かない振りをしておいた。
「わたしはアレク。お詫びに奢らせてくれ」
カウンターでは、人のよいお兄さん風笑顔のセイが、ぽんぽんと隣のスツールを叩いている。
躊躇う少女を半ば強引にカウンターに連れていき、自分とセイとの間に座らせた。
「エールとこの子に果汁を…」
「子供扱いするな!」
横から上がった抗議の声に、アレクシアとセイは顔を見合わせ、それから互いに小さく笑った。
「悪かった。じゃあ、モスコミュール」
アレクシアの注文したものが酒なのかさえ、少女にはわからないだろう。アレクシアは店員に目配せする。店員も心得顔で、アルコールの割合をかなり少なめに作ったカクテルを少女の前に差し出した。
「あと、適当につまみも」
セイのオーダーに、店員は無言で頷いて奥に引っ込んでいく。
オレンジ色の液体の匂いを嗅いで、恐る恐る一舐めしたあとで、これなら飲めると表情を明るくした少女を、アレクシアはほほえましく見ている。
「お嬢さん、でいいのかな?」
「僕は男だ!」
きりりと眉を上げて即座に否定する声は明らかに少女のもので、アレクシアとセイは再び顔を見合わせた。
「そうか。それはすまなかった。名前を聞いても?」
「…ライ」
「ライ、よろしく」
笑顔で手を差し出すと、ライはおずおずその手を取った。強引に握手する。アレクシアの手の中にあるのは、やはり少女の小さな手。ちくりと、胸に痛みが走る。
しかしそんなことはおくびにも出さず、アレクシアは笑顔で話を続けた。
「そっちはセイ。あ、覚えなくていいよ」
「おい」
「アリアハンは久し振りなんだ。よかったら最近のことを聞かせてくれないか?」
「旅の、人?」
「まぁ、そんなとこ」
「あのっ、よければっ」
勢い込んで彼女が何を言いかけたのか、アレクシアにはわかる気がした。だから、言わせなかった。
「うん?」
真正面からライの目を見る。穏やかでありながら、アレクシアの目は厳しい。場数を踏んだ戦士の眼光は、成人したばかりの少女が直視するには鋭過ぎる。
「いえ…」
視線を逸らし、飲物に口を付けるライを“あーあ、かわいそうに”といいたげにセイは見ていたが、アレクシアが小さく首を振ったので肩を竦めて黙って料理を食べ始めた。
「あ、ええと。僕も、あんまり世間に詳しいわけじゃないんですけど…」
前置きして、ライは話始める。貴族のスキャンダルだの、流行りの服装だの、昨年のトーナメントでは誰がチャンピオンになったのか、などなど。
たまに感心しながら話を聞いているうちに、料理もあらかた片付いて、話のネタも尽きてくる。
沈黙が下りたところで、アレクシアは席を立った。
「ありがとう。時間をとらせて悪かったね」
「い、いいえ」
差し出された手を、今度は躊躇わずに握り返して来た。
「君は、旅に出るんだね?」
「えっ? どうして…」
「見ればわかる」
言われて見れば確かにそうだ。ライは上から下まで真新しい旅装に身を包んでいる。
「きっと、いい仲間と巡り逢える」
「オレみたいなっあぐっ」
茶々を入れて来たセイの顔面に裏拳を叩き込んで黙らせる。ライはぱちくりと瞬きを繰り返しているが、アレクシアは気にせず言葉を続けた。
「わたしが言えた義理ではないけど、辛いことがあってもくじけないで。あなたには竜の神の加護がある」
言いたいことは他にもあったはずなのに、結局当たり障りのない事しか言うことが出来なかった。
「会えて嬉しかった。じゃあ、これで」
「あ、あのっ」
翻しかけた体を、振り返る。
ライは少し躊躇った風に視線をさ迷わせた後に笑顔を見せた。
「元気で」
「君も」
笑顔で手を振り返し、酒場を出る。それきり振り返らず、足早に中抜け通りを西へ向かった。
途中追い付いたセイが、独り言のように空に呟く。
「あれ、オルテガの子だろ」
「らしいな」
「名乗らなくてよかったのかよ」
「……関係ないさ」
「お袋さんに会っていかなくていいのか」
「どっちの」
「………」
言葉に詰まったセイを視線だけ動かして見上げ、ぷっと軽く吹き出した。
「お前が考えることじゃない。いいから、行くぞ。予定より遅れてる!」
ポケットから取り出したのは赤銅色の鍵。陽光に煌めくそれをあるべき場所へ戻したら、アレクシアは戻らなければならない。自分が、本来あるべき場所へ。そこには、変えがたい仲間と、乗り越えねばならない現実が待っている。
そしてそこには、常に斜め後ろにいた、幼なじみだけが欠けている。
「ん?」
茜色の光を投げ掛ける太陽は、うまく表情をごまかしてくれただろうか。
「どうした?」
「なんでもない」
全てわかっているという顔で、優しく微笑む幼なじみに、にじむ涙は太陽が眩しかったせいだと首を振った。
【終】
夜の自警団さんに送り付けました〜♪相互リンク記念ってことで(遅っ)
ルイーダの酒場で一悶着起こしてるライちゃんとごたーいめーん♪
因みにアレクは18歳くらいのつもり。男装やめてますが、女らしくはないと思われる。本編だと18歳のアレクはバラモス倒してます。レベル40くらい?(まだ書いてないけど) 勿論セイはいません!
まぁ、パラレルだからいいじゃないか。えへらへら。
てか、クリスマスSS放置中なんだけどね。
いや、書いてますよ?なんつーか、ほら、テスト前になると部屋片付けちゃう的なアレですヨ。
ライの瞳の色は濃い藍色にごく薄い緑が入った青色でございますが、ここでは宝石にたとえたくて(そしてその宝石が思い浮かばず)黒曜石と表現しておりますです。ごめん(==;
※お詫び
モスコミュールをオレンジ色と書いてますが、オレンジじゃないですね?
酒に詳しくないもので、甘そうなカクテルなイメージでモスコミュールと書いてしまいました。あえて訂正はしていませんが、誤りをお詫びします。