ドラクエ2

□DQ2 if
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戦う理由 2−S

 長く、辛い旅が終わった。
 最初一人で始まった旅は、掛け替えの無い仲間を加え、僕ら三人、初めての事ばかりで大変だったけど、それ以上に得るものも多かった。
 その旅が、終わったんだ。

 ムーンブルクを滅ぼし、世界を破壊神にささげようとしていた、大神官ハーゴンを倒した。
 ハーゴンが凶行を引き起こす元凶となった破壊神シドーも倒した。
 僕らは誰ひとり欠ける事なく、悲願を成就し、精霊神ルビスさまの恩恵をこの地上に蘇らせる事に成功したんだ。
 世界に再び光が蘇り、全てはうまく行くはずだった。


 なのに 何故?
 この心に蟠る、晴れない靄は何だ?



 ローレシアに帰還した僕らは人々の歓呼に迎えられ、勢いとしか思えないがラルフがローレシアの王位を継承した。
 新王ラルフが最初に発した宣言は、ムーンブルク第一王女アルテナとの婚約だった。
 ローレシアの国中が見たこともないくらいの熱狂と興奮に包まれたのは言うまでもない。

 少し恥ずかしそうにはにかんだアルテナの花嫁衣装はとても綺麗だ。
 僕の大切な、大好きな二人が笑ってる。
 みんなも笑ってる。
 僕も笑う。
 ああ、平和ってこういうことを言うんだな。
 ラルフがアルテナにキスをする。
 幸せそうに優しく微笑む。

 ―――ズキン

 え?
 僕、どこも怪我なんかしてない。なのにどうして、胸が痛いんだろう?
 視界が歪んだ。吐き気がする。ひどい目眩に、立っていられない。

 カシャー…ン

「なっ…!?」

 ほんの数日前、感じた、邪気。
 生きている限り忘れないだろうあの感覚は、この体の内側から沸き上がる。
 憎悪。怒り。
 全てを破壊しろと、心の中で叫んでいる。
 眠りを妨げられ、安らかな闇を求める心が、自分の意志とは違う場所で僕の魂を押しやろうとしている。

「アーサー!」

 駄目だ! 来ないで!
 悲鳴を上げて逃げ惑う人々を巻き込み喰らい、闇が成長していく。

 間違えるはずがない。

 圧倒的な存在感を持つ、禍つ神。
 僕の中に、奴がいる。

「どうしたというのだ、息子よ!」

 父上…

「おにいちゃん!」

 エスト…

 ごめん。

「ら、る…」

 どうにか声は出た。
 だけどそれは、これが僕の声かと疑いたくなるような代物で、僕の体が僕でなくなっているのがわかった。

「アーサー」

 ああ、ラルフ。そんな表情(かお)をしないで。
 もう君に迷惑をかけたくないよ。今まで散々君には助けてもらったもの。迷惑をかけてきたんだもの。最後くらい、自分で責任をとりたいんだ。

「来な、い、で」

「アーサー!!」

 アルテナ 泣か ないで

「ごめ…、ア、テア…やくそく、まもれそうに、な、い」

 僕一人でシドーだけ倒して、僕も助かる方法が思い付かない。
 周りに被害をつけないで、シドーを倒すには、これくらいしかないんだ。

「駄目よ! やめて!!」
「アルティ?」
「ラル、アーサーを止めて! アーサーは死ぬ気よ!」
「なんだって!? アーサー! よせっ!」

 ダメだよ。
 いくらなんでもそれだけは聞けない。
 最後に一度くらい、僕の我が儘を通したっていいだろ?

「我が双脚は時空を超える。ルーラ」

 術は発動した。
 本当なら、僕も知らない、人もいない荒野…いや、別の世界にでも行けたらいいのに。残念ながらルーラで行けるのは僕がよく知っている場所なんだよな。
 どこへ行けばいい?
 どこなら、被害を小さく事を成すことが出来る?

 きっとラルフは僕を追いかけてくる。
 僕を助けようとしてくれる。
 ありがとう。
 だけどダメだよ。
 君はアルテナを幸せにして。もう二度と、彼女から大切な人を奪いたくないんだ。だから追い掛けてこないで。お願いだ。

 海が見えた。
 陽射しにキラキラと宝石のように波が輝いている。
 ベラヌール。
 僕は一度ここで死んだ。
 あの時は勝った。
 だから、今度だって――――

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