ドラクエ2

□DQ2 if
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キャラ
(カプ) ロレ×ムン←サマ
■ラルフ:ローレシア「俺」
■アーサー:サマルトリア「僕」
■アルテナ:ムーンブルク「私」


戦う理由 1

 雪舞う極寒の地で、私たちは言葉を失っていた。
 呼吸する事すら難しいこんな険しい自然を相手に、地獄から蘇ってきたかのような恐ろしい魔物を相手に、私たちがここまでやってきたのは何のためだったのか?
 この険しい旅の、最後にして最大の目的を前にして、共に歩み、共に戦ってきたひとに私たちは裏切られたのだ。

「もう一度言う。ここから先は、俺一人で行く。お前ら2人は戻れ」

 噛んで含めるように、一言一言をはっきりと、彼は先程と同じ台詞を繰り返す。

 どうして・・・?

 目の前が真っ暗で、何も見えない。何も感じない。
 いつも一緒にいたのに、今の彼が何を考えているのかわからない。彼の表情も、心も、何も見えなかった。

「ふざけるな・・・!」

 動けない私の前で、血を吐くような、むりやり搾り出したような声がした。それがあのアーサーのものだとは、一瞬わからなかった。もしかしたらラルフにも、わからなかったのではないだろうか。
 それほどに、彼の声はかすれていた。

「ふざけるな!」

 どんっ!

 目の前で起きている事が事実だと、すぐさま理解する事が出来ない。
 この戦いの旅に出る事に、城中の人間から反対されたというアーサー。家出同然に旅に出てからも、リリザの町で動けなくなっていたというアーサー。2年近くになるこの旅の間も、寝こみ勝ちだった、体の弱い、私の知る誰よりも優しく優雅なアーサーが、剣よりも竪琴を握っていた方が似合いそうなあのアーサーが、罵声を発しローレシアの王子ラルフに掴みかかっていた。

「ふざけてなどいないさ」

 つかみ掛かられたことに驚いてはいるのだろう。けれどその声音も態度も、先程からの冷静さを失ってはいない。いつもの彼と同じだ。否、いつも以上に冷淡で冷静な為政者の顔。

「アーサー、もう無理をすることはない。ここまで付き合ってくれたことに感謝している。無理をさせてすまなかっ…っ!」
「きゃ…っ」

 殴られて、雪原に倒れるラル。拳ひとつで私を握りつぶしてしまう一つ目の巨人サイクロプスの拳すら耐えてみせるラルフが倒れている。それだけでも意外なのに、そのラルフを殴り倒したのがアーサーだなんて。私は我が目を疑った。

 倒れたラルフに飛び掛り、馬乗りになってアーサーは尚もラルフの襟を締め上げた。

「それがふざけてるって言ってるんだよ! 誰が無理強いされてこんなところまでのこのこやってくるもんか! どんな馬鹿だ、それは!」

 目を見開き、瞬きすら忘れて見守るしかない私の前で、2人は睨み合う。アーサーが振り上げた拳を、今度はラルが振るわせなかった。馬乗りにされた不安定な体制からも、ラルフはアーサーの拳を受け止めて押し返したのだ。そしてそのまま、いとも簡単にアーサーの体を投げ飛ばし、雪を払って立ち上がる。

「お前には無理だ。そんな細腕でこの先、生き残れると思うのか?」

 私に背中をむけて発せられた言葉。どんな顔をしてラルフがその台詞を口にしたのか、私には見えなかったけれど、優しい目をしているに違いない。冷静で何事にも合理性を求める彼が出した答えは、決して私たちを傷つけようとか、手柄をローレシア一国のものにしようとか、そんな利己的なものではないのだ。それはこれまでに得られた情報から彼の中で導き出された答えであり、誰も欠くことなく目的を遂行し、例え彼が戻らなかったとしてもロトの血脈を絶やさぬ為の保険として、私たちに引き返せと彼は言うのだ。

「冷静に考えてくれればわかるはずだ。アーサー、お前はアルテナをつれて戻れ」
「・・・嫌だ」
「アーサー!」

 初めて、ラルフが語気を荒げた。

「嫌だ。冗談じゃない!」

 立ち上がり、雪を蹴って掴みかかってきたアーサーを、ラルフは片腕一本でいなす。一度はバランスを崩したアーサーも、すぐに体勢を立て直して再びラルフに突っかかっていく。

「聞き分けろ、アーサー!」
「冗談じゃないぞ! いつまでも君の背中に守られてるだけの僕らじゃないんだ!」

 そうね。確かにあなたは強くなったわ。アーサー。
 以前のように倒れなくなった。重たい鎧も剣も、扱えるようになった。私も、あなたたちに助けられた頃のままの私じゃない。
 でも――

「ラルフだって解ってるだろ? 確かに君は強いさ。でもここまで来られたのは僕らが三人でいたからだって!」

 ラルフの襟を掴んで、必死に取りすがっているアーサーに、ラルフはふっと息を吐いた。憐れむように、目を細めて。

「随分自分を高く評価しているんだな?」

 ゆっくり瞬きをして目を開いたとき、アーサーを見下ろすラルフの目は、凍てつくロンダルキアの空よりも冷たい色をしていた。
 あ、これは・・・

「俺一人でも、俺はここまでたどり着けたさ。誰の助けも借りなくてもね」
「おまえっ!」

 拳を振り上げたアーサーを、ラルフは逆に殴り飛ばした。手加減容赦ない一撃は、アーサーの体を吹き飛ばす。

「調子に乗るなよアーサー。お前にハーゴンは倒せない。お前のかわりに、ハーゴンは俺が仕留めてやる」
「強情っ張り!」
「なに?」

 口元の血をぬぐいながら睨むアーサーに、ラルの眉間に不愉快そうな皺が寄る。

「素直に言えばいいだろう、アルテナが心配だから連れて行きたくないって」
「なっ」

 何を言い出すの?
 状況も忘れて私は狼狽する。
 そんなんじゃない。心配するのは当たり前だわ。そこに特別な意味などありはしないのに。一瞬、私がラルに抱くのと同じ種類の心配を、彼がしてくれるのだと錯覚してしまった。
 そんなはず、ないのに・・・

「あ、当たり前だろう! アルテナはムーンブルク唯一の生き残りなんだから」

 さっきのアーサーを馬鹿にしたような、冷たい言い方がお芝居だってことはわかったわ。でも、これは?
 頬を赤くして必死に言い訳しているような今の状況は?

「ラル・・・?」

 はじかれたように私を見た青い双眸が、年齢相応の幼さを見せて揺れていた。目が合うと、すぐに目を逸らされる。

 ああ、ほら。やっぱり。

 少しの間辺りをさまよったラルフの視線は、すぐアーサーに戻った。

「妙な言いがかりをつけるのはやめてくれ。時間の無駄だ。どうするのが一番いいのか、お前にもわかるだろ?
アルテナを連れて戻れ。そしてムーンブルクを再興するんだ。俺に気兼ねする事はないさ。アルテナの側にいてやってく――」
「ラルフ! この大馬鹿野郎!」

 雪を投げつけた姿勢のまま、アーサーは怒鳴った。目には涙を浮かべ、肩で息をしている。

 私、私は・・・もう疾うに諦めていたのに、解っていたはずなのに、まだ、こんなにも胸が痛い。

「何をすべきかじゃない、何をしたいのか、だ! アルテナの為とか僕の為とか、そんなのはどうでもいいんだよ! お前は何がしたいんだ?
どうして自分のことにだけそんなに臆病なんだよ!」
「臆病? 俺が?」
「そうさ! 僕が知らないとでも思ってた? 気が付かない訳がないだろう?
君が誰のために旅に出て、誰のために戦ってたか、そんなのお見通しなんだよ!
君の背中が守ってたのはアルテナだけさ。言えばいいじゃないか。認めろよ! アルテナが好きだって、大事だって!」

 ――・・・えっ?
 今日は信じられないことばかりだ。
 ずっと嫌われてると思ってた。
 私の、片想いなんだって。

 ラルが、わたしを、す、き・・・?

「ラル・・・? ほん、とう、に・・・?」

 言葉を失って立ち尽くす姿は、途方にくれたどこにでもいる少年のよう。
 真っ赤になった顔の、下半分を手で隠して、少し前に見たのと同じ瞳がちらりと私を見て、落ち着きなくさ迷った。

「どうしてくれる・・・」

 覆ったままの口元から、くぐもった声がした。恨めしそうにアーサーを睨みつけるその仕草も、どこか可愛く見える。
 睨み付けられたアーサーも、ニヤニヤと笑っているだけだ。

 まだ雪の上に尻餅をついたままのアーサーにずんずん近付いていったかと思うと、ラルはアーサーの頭をぽかりとはたいた。「イテッ」といいつつ、アーサーの顔は嬉しそうに緩んだまま。それからラルは、ぐるりとこちらを向いた。まっすぐ大またに近付いてくる。どきんと心臓が鳴った。

「アルティ、その・・・」

 真正面に立つラルを見上げると、少しさまよった後で、青い瞳はぴたりと私を見つめた。

「言うべきではないと思った。今も迷ってる。俺はローレシアに帰らなきゃならないんだ。それに、君とアーサーは婚約してただろう?」

 そんなもの、契約書もなにもかも、みんな燃えてしまったわ。

「何があっても君だけは守りたいんだ。だから戻って欲しかった」

 ええ。知ってる。
 でも・・・まだ、そんな事を言うの?

「この期に及んで帰れなんて言うんなら、ローレシアもアルテナも僕がもらうからね」

 薬草を咀嚼しながらアーサーが意地悪く笑う。むぅっと小さく唸っていたラルフは、アーサーに負けず劣らず悪戯な笑みをアーサーに向けた後、最後の一歩を踏み込んできた。

 こちらの準備もお構いなしに、急に抱きしめられて息も出来ない。

「好きだ。ああ、畜生。こんな格好悪い告白したくなかったよ。君の前では、いつでも最高に格好いい俺で居たかったのに」

 ダメよ。ラル。
 恋は、格好悪いものだわ。
 素のままのあなたを見せてくれなくちゃ。フェアじゃないでしょう?

「アル、テナ・・・?」

 無言で胸にしがみついたままの私に、少し不安になったらしい。
 私を抱く腕の力を緩めて、ラルフは腕の中の私の顔を覗き込む。

「!?」

 ぐいと襟を掴んで引き寄せ、それでもまだ足りなくて背伸びをする。唇の端にちゅ、と軽く口付けて、それから呆気に取られているラルフを見ていたわ。どんどんと真っ赤になっていく顔を見るのが嬉しくて、かわいくて、自然と笑みがこぼれてくるの。ここが破壊神に祝福された、呪われた地である事も忘れていたわ。

 さっきから少し騒ぎすぎたんでしょうね。
 いつの間にかシルバーデビルの群れの接近を許していた。それでも、もう少しだけ、ほんの一言お話をする時間くらいはあるでしょう。

「アルティ・・・」
「ラル、私を好き?」
「ああ。好きだよ。アルティは?」

 見詰め合う瞳が、だんだんと近くなってる。

「ええ、私も・・・」

 照れくさくて、くすぐったくて、でも、この上なく幸福だわ。
 身を切る寒さも、周囲の喧騒も気にならない。
 息も凍るロンダルキアで、今、息を奪うのは、優しい口付け。


「ちょっとぉ! 僕が悪かったって…ぅわっと! 2人とも手伝ってよぉ! くそっ、帰っときゃよかったよ!」





【あとがき】
鉄のラインバレルがDQ2に見えて仕方ない←目が腐ってますよ
ラインバレルに看過されて書いた一本。キャラはあえてアゼルたちと別にしました。
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