ドラクエ2
□DQ2 if
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拍手からお引越
いつまでも縮まらない距離
最後に一体残ったシルバーデビルの放ったメガンテの爆風に、僕らは吹き飛ばされ雪原を転がった。
生きている。
あの爆発に巻き込まれたのに、僕らはまだ生きていた。
生きているのは、とっさに僕とアルテナをラルフがかばってくれたからだ。光が弾けた瞬間、僕らをおしやった彼の体が、僕らの前に立ちふさがり、大きな影が僕らの上に落ちて、それから・・・
「ラル!」
泣き出しそうな悲鳴に振り返ることすらできなかった。
なぜなら僕の前には、先ほどの騒ぎを聞きつけたのかサイクロプスが巨体を揺らして近づいてきていたのだから。
「くそ!」
あいつを相手にしたら、僕のベギラマは手持ち花火みたいなもんだ。だからいつもはアルテナのイオナズンとラルフの剣をメインに戦闘を組み立て、僕は補佐に回る。
しかし今は、そのラルフもアルテナも戦闘には参加できない状況だ。
ラルフはうめくこともしない昏睡状態。アルテナは必死にベホマを唱え続けている。
僕が、やらなきゃ
僕だって城を出てきたばかりのころの僕じゃない。
毎日ラルフの技を見て、僕なりに稽古を積み、実践を重ねてきた。今ではラルフとだってそれなりに渡り合える自信があるんだ!
やってやる!
「アルテナ! ラルフを頼む!」
返事は待たない。スクルトを唱えながら隼の剣を抜いた。
ラルフのように一撃で相手を圧倒するなんて僕にはできない。だから手数で勝負する!
まずは先手必勝!
「ベギラマ!」
鉄さえも溶かしてしまう熱線も、この雪では威力をそがれるのか。単に相手が悪すぎるという話もあるが、とにかく予想通り大して効いてない。
「ち、だろうと思ったよ」
ちょっと熱いお湯がかかったくらいのダメージしか受けていないんだろう。巨人は逆に憤って僕に向かって丸太のような腕を振り下ろした。
ラルフなら盾で受けるか剣でいなす。僕がそんなことをしたら僕がつぶれるので、横にステップを踏んでかわした。
遅い遅い!
サイクロプスは巨体だから、一つ一つの動作が鈍いように見える。大きいからそう見えるだけで、実は結構すばやい。大きい分だけ移動する距離も桁違いだ。
それでも、毎日ラルフの相手をしている僕には、サイクロプスの動きが手に取るように見て取れた。
(くそ、どんだけだ)
自分の10倍もあろうかという巨人や竜を相手に一歩も引かず、ましてや圧倒してしまう人間など、世界広しと言えどもラルフしかいない。
誇らしいような、妬ましいような。なんともいえない感情が沸いてきて口の中が苦くなる。
苦くなる理由はもうひとつあった。
あれから僕は何度となくサイクロプスに剣を突き立て、きりつけているが、一向に倒れる素振りが見えないのだ。
(―て、いうか)
有効打が入ってない!?
僕が切りつけた場所は、薄くサイクロプスの皮膚を傷つけていた。しかしそれだけだ。大した出血らしい出血もない。紙で皮膚を切ったむず痒さ、その程度でしかないのではないだろうか。
愕然とした。
僕は強くなった。
強くなったのに…―
――この、程度なのか…?
陰る光。うなる風の音。
はっとして顔を上げたときにはもう遅い。
うるさいコバエを叩き落そうと巨人の手が振り下ろされる。
ああ、僕は
なんて無力なんだろう
神の裁可を待つかのように、僕はその時を待った。
剣を構えることすらしなかった。
―――旋風が、吹いて
見慣れた背中が視界に飛び込んだ。
遅いんだよ。ばか。
「すっこんでろ。お前の出る幕じゃない」
わずかにこちらを振り向いて、に、と不敵に笑うのは・・・
「…はっ」
呆れたような笑いが僕の口から漏れた。
ヒーローの言うことじゃないだろ。
返り血を浴びてにやりと振り返ったラルフの顔は、やはりヒーローからは程遠い笑顔だった。