ドラクエ2

□DQ2 if
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アンケートのコメントより
よくあること

 海で魔物に襲われ、命からがらたどり着いた海岸。浅瀬に碇を卸し、緑の箱を浮輪がわりになんとか波打ち際にたどり着く。

「っぷはー!」

 ぐったりしたアルテナを載せた箱を押して、浜まで泳ぎ着いたラルフは、もう限界とばかりに砂浜で大の字に寝転んだ。

「なぁに、はしたない」

 他人様の棺桶の上に突っ伏している人間の言葉とも思えない。

「ひとに運ばせといて…」

 ぽそりとラルフの漏らしたぼやきに、アルテナはえいやと爪先で水を蹴った。
 しぶきがラルフの顔に飛んで、塩水が口に入ったらしい。しかめっ面のラルフが、無言で海水を掬いあげる。

「冷たっ」

 濡れないようにたくしあげていたローブに海水の染みができる。恨めしげにローブとラルフとを交互に見ていたアルテナは、砂浜に上体を起こしてにやにやしているラルフに、意を決して箱から下りた。

「あ、おいっ?」

 慌てたのはラルフだ。淑女然としたアルテナが、長いローブの裾を膝上まで托し上げ、小さな子供の様に煌めく海中へと身を踊らせたのだから。
 ぱしゃぱしゃと跳ね上げられ、乱反射を繰り返す海面も眩しいが、楽しそうにはしゃぐアルテナの笑顔が、なによりローブの裾から覗く白い素足がまばゆい。

「えいっ!」
「あ、こら、なにす…」

 またもや海水が顔面に命中。声を上げて笑うアルテナに対して、顔をしかめて黙りこむラルフ。

「〜〜やったなぁ!」
「きゃあっ」

 盛大に水しぶきを上げて海水に躍り込み、ラルフは両手で水をかける。裾が海中に浸かるのも構わず、ローブから手を離して飛沫から顔を庇うアルテナ。
 いつ魔物が出るかもわからない場所だというのも忘れて、ふたりは子供のように水の掛け合いに興じた。それこそ、息が切れ、へたりこみ、びしょびしょになるまで。

「さむっ」

 いかに南の温かい地方にいるとはいえ、日が落ちてしまえば気温は下がる。濡れた衣服を着ているとなれば尚更だ。
 ぶるりと震えたラルフに、アルテナは勝ち気な笑みを見せる。

「ね、知ってる? 馬鹿は風邪を引かないのですってよ」

 耶喩するような含み笑いに、ラルフはむっと唇を尖らせた。

「俺だって風邪くらいひく」

 "たまに"と小さく付け加える。それはもう、自信なさ気に。
 記憶にある限り、小さな時に伏せたくらいで病気らしい病気もしていない気がする。
 侍女や乳母は、「殿下は丈夫でよろしかったこと」と褒めてくれたが、そうか、馬鹿は風邪を引かないのかと妙に納得してしまう。

「ま、いいじゃないか」

 火を起こしながら、ラルフはアルテナを手招いた。ローブの裾を絞って水気を切っていたアルテナの肌は寒さで粟立ち色を失っている。

「なにが?」

 濡れた衣服が透ける事を気にしているのだろう。肌にぴたりと張り付き、体の線もあらわなその立ち姿は、確かに煽情的ではあるのだけれど。

「ラ、ラルフ?」

 今は何より、震える体を温めてやりたかった。
 強引に腕を引き寄せ、華奢な体を胸に抱く。
 驚き萎縮するアルテナを、怯えさせないように、優しく優しく抱きしめた。

「俺は風邪を引かないから、もし君が風邪を引いても看病してやれる」

 だろ? と同意を求めて片目を瞑ると、アルテナは目をまるくした後で噴き出すように笑った。

「ばかね」
「ああ。そうだな」

 抱き合いながら火に寄り、冷えてしまった互いの体を暖める。湿った砂の上に直接座ると、尻からはい上がる湿気は堪え難く、ふたりは手頃な椅子代わりにと、緑の木箱に腰を下ろした。
 踊る焚火に照らされながら、沈む夕日を寄り添い眺める。
 触れた肩からは、体よりも心を温かく満たす何かが流れ込んでくるかのようだ。

「少し、眠るといい。俺が起きているから」

 今にも寝落ちてしまいそうに船を漕いでいたアルテナは、こくんと顎を頷かせると素直にラルフの肩に頭を乗せた。
 程なく聞こえてきた寝息に、ラルフは優しく目を細めた。まだ少し湿っているアルテナの髪を抄いてやりながら、海を赤く染める夕日に目をやる。
 あの日空を赤く染めた炎。あの赤く燃えた空を、自分は決して忘れることはないだろう。
 自分の知らない場所で、大切な人が失われようとする恐怖。それから逃れるために、ひたすらに剣を振り続けた。
 旅立ちから思えば、格段に強くなった。それでもまだ、足りない。
 アルテナの肩越しに右の拳を見る。
 なにものにも後れはとらない。
 もっと強くなる。
 この腕に、守るべきものが有る限り。




拍手おまけより引越し
ほんわからぶらぶはどこいったΣ(´Д`;)
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