ドラクエ2

□DQ2 if
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戦う理由 エピローグ


 俺はやはり甘かった。

 伝説をよくよく思い出してみれば、光の玉が払うのは魔王の闇の魔力だけで、闇の力そのものではなかったのだ。
 さらに言うなら、シドーは破壊の神であって、魔王ではない。魔王とか破壊神とか、となかく俺達の敵だっていう認識しかなかったけど、多分違うものなんだろう。
 もしかしたら俺達は、御先祖達の誰よりも強大な敵に相対しているのかもしれない。


 アルテナが巻き込まれないように、時折距離を測りながら、俺はシドーとの接近戦を選んだ。あの時も、そうしたように。

 光の玉の加護を得ても、アーサーの意識がシドーを抑えていられたのは僅かだった。
 アルテナは、アーサーの体を傷つけることを恐れ、思い切った攻撃を出来ないようだったが、手控えていられるような状態でないことが解るや表情を変えた。今、雷の杖を構えて魔法を唱える彼女の瞳には、痛々しいまでの決意がある。

 俺達の戦いは、つねに俺の剣を中心に組み立てられていた。アーサーのスクルトやマヌーサといった呪文の援護を受けて、俺が敵を一体ずつ着実に倒す。
 ベラヌールのときも思ったが、アーサーを欠いてしまうと、いつもの戦術が出来なくなるのだ。
 アルテナの呪文は威力がデカすぎて、1対1の戦いには向かない。接近戦を行う俺を、巻き込みかねないからだ。ルカナンなどの援護は、雑魚相手ならいざ知らず、シドー相手には意味がなかった。

 アーサーの体だというのが信じられないほど、シドーはよく動いた。
 剣を繰り出せばかわされ、剣を引き戻すより早く、爪が迫る。考えるより先に、本能に任せて俺は体を捻った。日々積み重ねられて来た鍛練が、厳しい戦いの旅が、無意識に体を動かしていた。

「風の駿馬よ、ラルフに宿れ! ピオリム!」

 !?
 一瞬風のようなものが体を包んだかと思うと、アーサーの喉目掛けて放った切っ先が、予想より早く振り抜かれた事に、俺は目を向いた。
 アルテナのかけてくれた補助魔法だろうが、初めてかけられた。
 俺自信を含めて、誰も想像していなかった速度で、剣はアーサーの喉を切り裂き、二激目もアーサーの爪が戻されるより前に打ち上げた刃がアーサーの爪を切り飛ばす。

「ラル、受け取って!」

 やけに間延びしてアルテナの声が聞こえて、再び同じ感覚が体を満たした。
 アーサーが一動作する間に、俺は二手、三手攻撃を繰り出す。
 武器も鎧も身につけていないアーサーの体は、おそらくシドーの魔力に鎧われていたのだろう。しかしそれも光の玉が剥がしてしまった。ロトの剣を防ぐものは、なにひとつない。
 闇の波動を振るおうとして突き出された腕を、すぱりとロトの剣が切り落とす。噴き出る血を避けて半歩、突き出た腕の分だけ距離を詰めた。ずぶりと、腹の中心に剣の切っ先が埋まっていく。
 すぐ横に、アーサーの、顔があった。
 柄まで体を貫いた刃越しに、温かい血が伝わってきて腕を濡らす。
 血で滑らぬように、剣を握る手に力を込めて、アーサーの体の中心から左に、剣を振り抜いた。
 ロトの剣は、ロトの末裔の血に染まりながら、その体を熟れた果実よりもたやすく切り裂く。俺の腕には、アーサーを切ったといのに、ほとんど負荷という負荷がかからなかった。かわりに、肩に、どさりとアーサーの体がのしかかってくる。

「…ら、ぁ…るぅ…」

 カランカラン

 甲高い音を立ててロトの剣が床に落ちた。
 音に気付いてアルテナが駆け寄ってくる。泣きながら、何度も何度もベホマを唱えて。無駄だとわかっていたけど、俺も止めなかった。その間、俺はただ、次第に熱を失っていくアーサーの体を抱きしめていた。


 どれほど、そうしていただろう。
 重たい雲に覆われていた天に、うっすらと明かりが昇る。
 アーサーが、いなくなっても、世界に朝はやってくるんだ。
 アーサーの亡骸を横たえ、その前で俺達は肩を寄せ合いただ朝日が昇るのを見ていた。

 俺達は、世界を救った勇者の血を引いていて、創造の女神すら味方にして破壊神を倒したのに、ただ一人、大切な仲間の命すら救うことが出来なかったんだ。
 ここは、勇者ロトと冒険を共にしたというカンダタが下りた立った、いわば伝説の地だ。
 それなのに、神は俺達の祈りには応えなかった。奇跡なんて、起きなかった。

 ロトの勇者は三度世界を救い、破壊神を倒した勇者として、俺は歴史に名を残すだろう。

「俺の伝記をかくとか吐かしやがった癖に、俺より先に死ぬ奴がいるか。バカが」

 どれほど悪態をついても、もうアーサーは応えない。
 天上に神がいるのなら、糞喰らえ。

「雨が降ってきたみたいだ」
「雨なんて…」
「いや、雨だよ」

 天を睨み、上げた前髪をくしゃりと乱して、顔を隠した。肩に小さな頭を載せてアルテナは小さく「そうね」と呟いた。






【あとがき】
やりたかったのは「おまえは俺が殺してやる」って台詞をローレに言わせることと、ハガレンのマスタング大佐のぱくり。
あのシーンで大佐が好きになりました。
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