ドラクエ2

□DQ2 if
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戦う理由 2−R

 何故、こんなことになったのか?

 帰ってほしかった。彼女を危険に曝したくなかったから。でも、それと同時に、アーサーと二人切りになんかしたくなかったんだ。だから、雪のデルコンダルで、俺はアルテナに気持ちを伝えた。

 結局二人は俺の言うことを聞かず、俺達三人はツインタワーに挑み、三魔将、そしてハーゴンを倒した。
 ハーゴンが凶行を引き起こす元凶となった破壊神シドーも倒した。
 俺たちは誰ひとり欠ける事なく、悲願を成就し、精霊神ルビスさまの恩恵をこの地上に蘇らせる事に成功したのだ。
 世界に再び光が蘇り、全てはうまく行くはずだった。

 なのに 何故?




 ローレシアに帰還した俺達は人々の歓呼に迎えられ、平和を祝う凱旋式は、そのまま王位継承式とアルテナとの婚約披露宴に移行した。
 ローレシアは見たこともないくらいの熱狂と興奮に包まれて、人々はみな、平和を喜び、俺達の前途を祝ってくれた。
 すべての人が俺とアルテナの婚約を祝ってくれる。そしてすぐ隣には、愛しいアルテナの笑みがある。
 俺は、俺達は、この上なく幸福だった。


 そう、この瞬間まで。


 カシャー…ン

 澄んだ音を立ててクリスタルグラスが砕け散った。
 胸を押さえてうずくまるアーサーに、周囲の人々が駆け寄り、そして彼に触れた一人が、黒い影に飲まれた。あとには何も残らない。

「なっ…!?」

 アーサーに駆け寄ろうとしていた足が止まる。
 ほんの数日前、感じた、邪気。
 生きている限り忘れないだろうあの感覚に、皮膚の裏側が粟立つようだ。

「アーサー!」

 何が起きたのか解らない。否、理解したくない。
 悲鳴を上げて逃げ惑う人々を巻き込み喰らい、闇が成長していく。


 見間違えるはずがない。

 圧倒的な存在感を持つ、禍つ神。

「シドー…」

 それは、どちらが落とした呟きだったのか。
 ぎゅっと俺の袖を掴んだアルテナの腕が震える。彼女を抱きしめる俺の腕も震えていたかもしれない。

「どうしたというのだ、息子よ!」
「おにいちゃん!」

 俺達の呟きは、どうやら誰の耳にも入らなかったようだ。
 狼狽するサマルトリア王と姫の前に割って入り、アーサーを隠す。
 その間にアルテナが、呆然と立ち尽くす衛兵に、俺達の装備を持ってくるように命じていた。

「あああ…ルビス様」

 誰かが絶望の声を上げている。
 泣き崩れ、神の御名を呟く。
 ただ、無力に。悲嘆にくれるだけだ。

 俺達は、無力にただ祈るだけの人々とは違う。

 アーサーになにがあったのかは解らない。
 それでも俺達は、ここにいる人達を守らなければならない。
 そして、当然ながらアーサーも助ける。
 今更なって、誰も死なせたりなんかするものか!

「ら、る…」

 苦しい息のもと、アーサーの声が聞こえた。
 背中から黒い翼を生やし、影をシドーの影と重ねたまま、彼は、笑った、のか?

「アーサー」

 呼び掛けると、アーサーを飲み込もうとする影が揺れた。
 ゆっくりと近づいて行く俺を、アーサーは片手を上げて制した。たったそれだけの動作が、今の彼にはどれほどの痛みを強いるのだろう。

「来な、い、で」

 馬鹿を言うな。
 どうしていつもおまえばかりが我慢する必要があるんだ。
 ベラヌールの時だって、貧乏くじを引いたのはおまえだったじゃないか。

「アーサー!!」

 アルテナの声は今にも泣き出しそうだった。
 畜生。もう泣かさないって決めていたのに!
 アルテナに向けて、アーサーは苦しそうに微笑んだ。
 無理に笑うな! おまえは、どうして…!

「ごめ…、ア、テア…やくそく、まもれそうに、な、い」

 約束?
 何のことだ?

「駄目よ! やめて!!」
「アルティ?」
「ラル、アーサーを止めて! アーサーは死ぬ気よ!」
「なんだって!?」

 俺が振り返った時、アーサーは既に呪文の詠唱に入っていた。

「アーサー! よせっ!」

 神聖語はわからないが、これは違う。メガンテじゃない。
 しかり、これは…!?

「ルーラ」
「アーサー!」

 理解できたのは最後の単語だけ。延ばした手は、届かなかった。
 アーサーは、行ってしまった。ひとりで、妙に納得した微笑みだけ残して。

「アーサー…」

 虚空を掴んだ手を、力任せに床にたたき付けた俺に、アルテナがそっと触れた。
 ひとりじゃない。
 目を上げると、アルテナは決意を込めた静かな眼差しで頷いた。
 ああ、俺も同じ気持ちだ。
 何も言わずともわかる。俺達は、三人でようやく一人前。誰も欠けてはならないんだ。

「殿下! アルテナ様!」

 命じられた通り、装備一式が運ばれてくる。
 正装を脱いで、チェニックの上からブルーメタルの鎧を、ひとつひとつ嵌めていくと、気持ちが引き締まっていく。
 光の鎧よ。おまえも、倉庫にしまわれるのは嫌だろう? 一緒に行こう。そして導いてくれ。

「何をしておる! 今ようやく旅から戻ったばかりではないか!」

 血相変えて詰め寄る親父殿には悪いが、俺はあなたの言いなりになるつもりは毛頭ない。

「残念ながら父上。わたくしの旅は、まだ終わってはいないようです」
「おまえはこのローレシアを継ぐ身、勝手は許さんぞ、ラルフ!」

 父の手は、こんなに小さかっただろうか。軽く掴んだだけなのに、父は顔をしかめて手を引いた。

「ラルフ…」
「ご心配なく、父上。必ず戻って参ります」

 心配そうにこちらを伺うサマルトリア王とアーサーの妹姫にも頷いて見せる。

「サマルトリア王。必ずアーサーを連れて戻ります」
「お頼み申す」

 深々と頭(こうべ)を垂れるサマルトリア王に、もう一度力強く頷いた。

 さて、こっちの用意は整ったぜ。我が花嫁殿。

「結婚式が延期になっちゃったな」
「仕方ないわ。アーサーのいない披露宴なんて、したくないもの」
「ああ。そうだな」

 ふ、と悲しげに緩んだ瞳に吸い込まれるように口づけていた。瞬間真っ赤に茹で上がるアルテナの耳元でそっと囁く。

「初夜もお預けだし」
「ふ、不謹慎だわっ」

 あ。やっぱり怒ったか。
 いいじゃないか。結婚するってそういうことだろ? 皆に認められて、祝福されてーー勿論「皆」の中にはアーサーがいなくちゃ話にならないーー結婚して、大好きな君とひとつになりたい。君に触れる免罪符を早く手に入れたいんだ。だから一日でも早く、あのバカを連れ戻してやる。

「もうっ」
「イテ」

 ぽかりと胸を叩かれたけれど、本気で痛い訳じゃない。
 よかった。何にせよ、君が笑ってくれたから。俺も、まだ笑うことが出来る。

「行こう。アーサーが待ってる」
「ええ」

 抱き寄せた肩は細い。それでも、君は力強く頷く。
 俺達の瞳は、決して絶望を見ない。諦めるなんて、死んでもごめんだ。

 ロンダルキアを目指していた当初の旅よりも、更に宛のない困難な旅になるだろう。
 それでも、成し遂げて見せる。

 見つけたら、アーサー。
 覚悟していろよ。
 なんでも一人で背負い込もうとするその性格、叩き直してやる!!




ラルフバージョンで書き直しましたが、3部作に作り直すにあたり、2はアーサー視点で書くことにしました。ので没。
貧乏性なわたくしとしては、消すのも忍びなく、ひっそりとUPしてしまうのでした…
2009.6.10
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