ドラクエ2
□破壊神を倒した英雄達のその後
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3.進む道
ムーンブルク城・王都跡地に巣くう魔物の掃討と、瓦礫の撤去作業は、コナンの協力もあり、思いの外すんなりと終わり、人と物資の流通は回復の兆しを見せている。
僕は、ローレシアから一個中隊を率いて、ムーンブルクの治安回復に協力している。ムーンペタの守備隊長リンツとは、旅の間に面識があったので、これといった問題もなく同調作戦を取れている。ムーンブルクが新生なった暁には、彼には騎士団長を務めてもらう事になるだろうと、セリアと話してあった。
半年の間、ローレシア・サマルトリアは人、金、物資の全ての面に於いて、ムーンブルクを支援した。
結果、ムーンブルクは、国としての体面を一応とは言え保てるまでになっていた。
シドーを倒してから、一年。
初めの半年をローレシアで、後の半年をムーンブルクで、僕とセリアは共に過ごした訳だが、その密度は酷く薄い。他人行儀な顔で向き合うしか出来ない自分自身を、内心で嘲う。
「アレン王子、コナン王子」
そして今、女王の正装をしたセリアが、完璧な微笑で僕の前にいる。
「これまでの両殿下の友情に、感謝いたします」
友情…か…
差し出された手を握り返し、その甲に口付ける。
同じように、コナンも。
「我がローレシアは、ロトの盟約に従い、ムーンブルクへの如何なる助力も惜しみません。我が剣は、女王陛下の求めがあれば、いつでも御許に馳せ参じましょう」
言いながら、僕はセリアから目を離すことが出来なかった。僕らは見詰め合ったまま、動く事が出来ない。
「我がサマルトリアも同様です。ムーンブルクと女王陛下に、精霊ルビスの幸多からんことを」
僕らの間に割って入るコナンの言葉に、先に視線を逸らしたのは僕の方。意識せずに小さな溜め息が漏れた。
「道中、どうぞお気をつけて。皆様の旅に精霊の加護がありますように」
わかれの言葉も言わず、セリアを見ることもないまま、僕は振り切るように踵を返した。
「騎乗!」
号令一下、ローレシアの騎士達が僕に続いて騎乗する。数泊置いて、コナンの命令がサマルトリアの騎士にも下る。
拍車をかけ、一行の先頭を行く僕の隣に、コナンが馬を並べた。
きつく拳を固め、唇を噛む僕を、兵の視線から隠してくれたのだと気付いて、内心で礼を言う。
ちらりと見ると、憮然とした顔のコナンが二度口を開いた。
(ばか、か…)
この親友は、どこまで知っているのだろう。
昨夜、話し合いの末に僕らが出した結論を、彼には語っていない。
それでも観察眼の優れたコナンだから、何も言わなくとも全て分かっているのではないかという気がした。そしてそれを、賛成はしないまでも、否定もせずに受け入れてくれるであろうことも。
くっきりと爪の跡を残した掌を見詰め、一度だけ、馬上からセリアを振り返る。
君にはムーンブルクを捨てられない。
君がムーンブルクの王女としての道を選ぶなら、僕もローレシアの王子としての自分の義務を果たすよ。
さようなら
セリアの囁きが、今も耳に残っている。