ドラクエ2

□破壊神を倒した英雄達のその後
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●その後のそれから3

 奇妙な光沢と異臭を漂わせる沼地の真ん中に、アレフガルド本島とリムルダールを繋ぐ海峡トンネルはある。
 このトンネルが作られたのはおよそ500年前。勇者ロトがこの地に光をもたらした直後であったという。
 アレフガルド独特の地形から、航行の難しい海峡を航海するのに変わり、人や物を繋いできたトンネルだ。今では昔ほど使われることもなくなっているのだろうそこは風化し、そこここが土砂や海水で埋まっていた。

「ひどいな…」

 国で管理されてしかるべきトンネルは荒れ放題で、かろうじて本道だけ人一人が通れるといった有様だった。

「あれから14年だぜ? 一度も手入れがされていないっていうのかよ!?」
「僕に怒るなよ。財政難なんだろう。どこも一緒さ」
「俺だったらこのままになんかしておかない! どんなに財政難だって、やりようはいくらでもある筈だ!」
「コナン」

 アレンに食って掛かるコナンの腕をセリアは後ろから引いた。振り返るコナンにそっと首を振る。

「ここはサマルトリアではないわ」

 はっとするコナンの肩をぽんぽんとたたいたアレンは。苦笑半分、冗談めかして笑う。

「大丈夫。誰も聞いちゃいない。でも、発言には気をつけてくれよ。サマルトリア王」

 侵略の意思ありとみなされでもしたら厄介だ。
 ルプガナ自治領主の孫娘を王妃に迎えているサマルトリアが、ルプガナの同盟国ラダトームに領土的野心を抱いているなどと、立派な戦争の火種となりうる。折角手に入れた平和を、自らの手で壊したくはない。

「それを言うならローレシア王だ。俺は御身に尋ねたい」

 一瞬すまなそうな表情を浮かべたコナンだが、特にアレンには素直にごめんなさいが言えない彼のことだ。わざと澄まし顔で話題を変える。

「なにを?」
「リリザだよ! リリザの商人がサマルトリアの商人の利権を侵害してるんだよ!」
「いまさらあそこの商人に口を出す勇気なんかないよ。それは今ここでする話題じゃ…」

 不意に、アレンは真面目な顔で足を止めた。何事か問おうとして、コナンとセリアもその気配に気付く。

「何か、いる」

 大型動物の呼吸音。
 磯の香りに混ざる硫黄臭。
 衛兵の伝えた通りならば、この先に伝説の魔獣ドラゴンがいる。
 頷きあい、武器を手に慎重に通路を進んでいく。壊れかけた扉を開くと、予想にたがわずそこには魔獣の姿があった。

 ぐるぅぅ

 首をもたげて牙をむき、威嚇の唸りを上げる朱色の竜は、かつてロンダルキアへの洞窟で見かけたドラゴンよりふた回りほど小さい。
 アレンを頂点とした三角形の陣形で対峙した3人だが、威嚇の声を上げるだけでじりじりと後退するドラゴンに、困惑して顔を見合わせた。

「子供、だろう…? 何でこんなところに」
「見て、この子怪我をしているわ」

 セリアの言うとおり、ドラゴンは足と羽に傷を負っていた。
 年月を重ねたドラゴンは、人語を操り上位の魔法さえも使いこなすというが、この朱色の竜は孵化してまだ間もないのだろう。

「かわいそうに…」

 近くで怪我をして飛べなくなり、この洞窟で傷が癒えるのを待っていたのかもしれない。

「この様子では人を襲うこともないだろう」
「でもこのままにはしておけないぜ?」
「うん…」

 腕を組んで悩む二人を他所に、セリアは雷の杖を壁に立てかけると、ゆっくりと幼竜に近づいていった。

「セリア!」

 驚いて声を上げる二人を振り返り、にこりと微笑むと、子供にでもするように人差し指を唇に当てて「しー」と口だけ動かす。
 セリアが何をしようとしているのか分かっても、二人の心配事がなくなるわけではない。気配は消すよう努めつつ、いざというときにすぐに動けるよう、観察は怠らない。

 セリアの接近に、幼竜は低く唸り声を上げたが、敵意を感じさせないセリアのさせるがままに任せた。

「いい子ね。すぐに治してあげるからね」

 稚児に語りかけるように微笑み、セリアはその細い腕(かいな)を朱色の鱗に差し上げる。

「見えざる命の精霊よ。精霊ルビスに仕える者よ。我が言霊を糧として汝が力を示せ。全き姿の在り様を見せよ。ベホマ」

 白い光が、かざしたセリアの掌に生まれ、それが竜の体に吸い込まれる。光が消えた後は、すっかり傷の癒えた己が体に不思議そうな様子の竜がいた。

「さ、これでいいわ。おうちに帰りましょう」

 撫でてやると、幼竜は鼻を摺り寄せて甘えてくる。すっかりセリアに懐いてしまったらしい。

「ロトの聖女は竜まで手懐けちまったぞ」
「ああ。すごいな」

 素直に感心して頷き返すと、コナンはアレンの肩に腕を回して「ふぅん?」といやらしく笑った。

「なんだよ」
「妬ける?」
「馬鹿」

 なにに対してだとは聞けず、心底いやそうな顔を作って、アレンはコナンの顔を向こうに押しやった。


 ドラゴンの生態など知らないが、竜王が覇を唱えていた100年前ならいざ知らず、アレフガルドには本来竜は自生していなかったはずだ。
 最近ではロンダルキア山脈でわずかに生息が確認されているのみであり、山脈を越えてくることはない。それも翼を持たないアースドラゴンの類で、この朱色の幼竜とは明らかに種類が違った。
 このまま幼竜を放逐するのも後々問題になるだろうとのことで、アレンは竜王の島に渡ることに決めた。竜のことは竜王に聞くのが一番だという安易な結論に至ったためだ。
 幼竜をつれてトンネルを出る。太陽は西の空に傾いていた。
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