ドラクエ1

□ドラクエ1短編
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捏造DQ1
花のように美しく
 半年前に掠われたお姫様のことを、王様も国民も、悲劇のヒロインにして生存は絶望的だと考えていた。
 行方を調査するように言われた俺ですら、竜王倒すよりよっぽど大変だと思っていたほどだ。
 だから、ローラ姫の手掛かりが入ったときは、雲を掴む気持ちでその情報に縋ったさ。
 ガライで会った旅人や、マイラの村人が言うことを総合すると、ローラ姫は海峡トンネルに幽閉されているって線が濃厚だ。さらにそこに、いわくありげなドラゴンなんかがいた日には、その予想も真実身を帯びてくる。
 しかもそのグリーンドラゴンは、明らかにただのグリーンドラゴンじゃなくて、1度命からがら逃げ出したほどだ。作戦を練直し、装備を整えて挑んだ2度目の戦いも、死闘と呼ぶしかないような激しいものだった。
 疲れた体に鞭打って、ご丁寧に鍵までかかった扉をぶった切る。おそらくここにお姫様がいるんだ。出来れば風呂に入って髭を落し、鎧を金ぴかに磨いて、真新しいマントを纏ってのご対面と行きたいが、そうも言っていられない。態度だけは取り繕って、見よう見真似の騎士の礼をとる。魔物に掠われ幽閉されていたお姫様が、伝説の勇者の末裔に助けられるんだ。これで惚れない女はいないぜ? 姫を助けた英雄を、王様も無下にはできないだろ。これで俺は、晴れて一国の主になるんだ!

「失礼いたします」

 薄暗い室内には、思わず口と鼻を覆いたくなるような異臭が漂っていた。
 一見したところ、粗末な書き物机とやたら豪奢な寝台があるっきり、他に家具らしきものは見当たらない。
 ローラ姫が掠われてから半年、ずっとここに彼女が幽閉されていたのだとしたら…
 牢獄でさえ、もっとマシな暮らしが出来るに違いない。お城暮しのお姫様には、大層屈辱的で悲惨な日々だっただろう。

「わたくしは、ラダトーム王ラルス16世陛下より、ローラ姫救出の命を受けたもの。外のドラゴンは成敗致しました。どうぞお心安らかに、このアルフレドめにお身柄をお預けくださいますよう」

 ここまで言っても、ローラ姫からのアクションが一つもない。寝台にもたれて座ったまま、声も上げないのだ。駆け寄って抱き着いてくれとまでは言わないが、泣くとか 感動するとか、それくらいのことはするだろ?

 もしや…

 脳裏を掠めた嫌な想像に、俺は真っ直ぐに寝台に歩み寄った。それから一気に天幕を暴く。

「…やはり…か…」

 鼠にでもかじられたのだろう。白骨化した死体が、上等の絹のドレスを着て、そこにあった。



 本来白かったのだろうドレスは、見る影もなく茶黒く汚れていたが、施された見事な刺繍やその素材の良さから、着ていた人物の身分の高さが伺えた。
 遺骨の骨盤の大きさ、大腿骨の長さから、遺体が若い女のものであることは確かだ。
 そしてなにより、遺体の身元を決定付けたのは、指にはまった黄金のリングだった。
 三本足の有角鷲。ラダトーム王家の紋章だ。
 手の中の指輪をもう一度よく観察してみたが、やはり刻まれている紋章に間違いはない。

「ローラ姫…」

 俺も専門家じゃないから詳しいことはわからない。遺体の損傷も激しい。それでも、死後数ヶ月は経っているだろうこの遺体がローラ姫だということはほぼ確実だ。

「どうする…?」

 この遺体を、このままローラ姫としてラダトームへ連れ帰り、王や国民を絶望の谷へ突き落とすのか、遺体は持ち帰らず、ローラ姫は生死不明のまま王や国民を絶望の淵に留まらせるのか、それとも…

「火の精霊サラマンダー、汝の歩みは何者の目にも止まらず、ただ清浄の炎を残すのみ。ギラ」

 ぼうっ!

 脆くなっていた遺体は、火球の勢いに耐え切れず、弾け飛ぶように燃え上がった。
 炎に向けて、俺は精霊神ルビスの聖印を切った。

「悪く思わないでくれよ」

 竜王が現れてから、世界の精霊力は乱れてしまった。行き倒れた旅人や、戦場に取り残された兵士の遺体が、魔物となって人を襲う。ローラ姫の遺体も、このままにしておけば、いつそういった輩の仲間になるとも知れない。死して尚、不浄に捕われ辱めをうけるよりは、やや乱暴な手段を用いたが、今俺に葬られた方が幸せだと思うだろう。
 ローラ姫の遺体が灰になるのを待たず、俺は部屋の入口から室内に向けて更にギラを放った。そこに姫が捕われていたのだという痕跡を無くすためだ。

「我を光の王ミトラの元へ導け。リレミト」

 崩壊の音を聞きながら洞窟を後にし、地上に出るやすぐに、俺はルーラの呪文を唱えた。





 王都ラダトームに戻ると、挨拶のように人々は俺にローラ姫の安否と世界の行く末を問いかけてくる。城の高官ですらそうだ。
 国民の不安を放置し、国の存亡を賭けた大事の前に何もしない政府。不安から逃れるために享楽に走り、身寄りのない若者を勇者として犠牲の羊に差し出した国民達。
 そのどちらにも、俺はすっかり愛想が尽きていた。
 ローラ姫を助け出し、英雄として王家に婿入りする。そんな妄想をしたことがないとはいわないが、もはやそれが叶わぬ夢だということは、俺自身が一番よく知っている。それにもう、こんな傾きまくった国に、食指は動かなかった。
 仕方なしに始めた旅だったが、旅の途中で得たものは大きかった。噂では、ラダトーム以外にも人の住む土地があるらしい。今は竜王の魔力とやらで姿すら臨むことは出来ないが、船を手に入れて外洋へ出れば、新しい国がある。俺の興味は、見知らぬ新しい土地へ移っていた。

「アールフ♪」

 呼び掛けられ、新大陸について考えていたあれやこれやが霧散する。思考を妨げられたことにややむっとしつつ振り返ると、満面に笑みを浮かべた女が飛び付いて来た。

「うわっとと。こら、フローラ、危ないだろ!」

 女一人の体重くらいでバランスを崩すような柔な作りはしていないが、一応そう窘めておく。
 尻尾でも振り出しそうな喜びようで、ぎゅう〜と抱き着いてくるフローラを、俺も力を込めて抱きしめた。

「おかえりなさい!」
「ただいま」

 ひとしきり抱き合って、悪戯っぽく瞳を覗き込む笑顔の少女に口づける。通りからは呆れた様子のため息や野次や、冷やかす口笛なんかが上がったけど、そんなもんは関係ない。
 孤児院出の娘の末路が下級娼婦というのはよくある話で、兄妹同然に育って来たフローラにも当然そういう話が来ていた。金髪の巻き毛、青い瞳、整った容姿をしていたから、フローラには破格の値がついていたと聞いている。勇者ロトの末裔として、俺に白羽の矢が当たったのがもう少し遅かったなら、フローラは今頃、どこかの助平親父の屋敷に囲われていただろう。支度金として下賜された金貨を使って俺は下宿を借り、そこにフローラを小間使いとして雇ってくれるように頼み込んだのだ。下宿先の酒場の女将とは面識もあったから、フローラに酔客の相手をさせないことまで約束してくれた。

「変わりはないか? 嫌な目に合ってないか?」
「うん。大丈夫」

 毎日とはいかないが、なるべくフローラの所へ通い、街の連中に、フローラが俺の女だということを印象付けるようにしている。それでもフローラにちょっかいを出すような、俺を敵に廻すリスクを理解しない奴には力ずくでわからせた。今では王への信頼も篤い俺だ。下手な手出しは命取りだということを、町中の奴らが理解しているに違いない。
 フローラの華奢な肩を抱き、寄り添いながら下宿へ向かう。
 荷を解いて、湯を使ったら城へ行こう。
 俺の中で着々と、俺とフローラが幸せに生きていく算段が付きつつあった。




2009.11.23
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