ドラクエ1

□竜の勇者と呼ばれた男
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chocola 



「…………これは、なんですか」

 長い沈黙の後で、アレフは非常に事務的な物言いでそう問うた。
 目の前に置かれたのは飾りもそっけもない武骨なマグカップ。
 並々と注がれている、どころか溢れているのは茶色い謎の液体。
 表面には油が浮いているような奇妙な光沢があり、どこかでろりと粘性がある。
 湯気が上がっているところを見ると、温かいのだろう。

「ショコラですわ」

 拗ねたように唇を尖らせ、しかし作品を誇るようにふんっと息をはいたのはローラだ。
 エプロン姿も板についてきて、台所に一人でおいておいても、悲鳴も破砕音も、最近では聞こえなくなってきた。変わりに、荒くれものだらけの船には似つかわしくない、お上品な歌が聞こえるようになった。

「ショコラ…?」

 王都に居た頃、滋養強壮にと一度飲まされたことがある。苦いだけの飲み物で、一口飲むのもかなり苦労した覚えがある。あんなものを再び飲むくらいなら、スライムでも捕まえてすすった方がましだ。

「また随分高価な物を拵えたものですね。姫がお飲みになりますか?」

 ずい、とローラの方へカップを押しやると、中身が揺れてアレフの手を汚した。火傷するほど熱くはないが、眉をしかめる程度には熱い。

「そんな酷い!」

 ぐっ、とカップが押し返された。再び中身が揺れて、ローラの手に中身が跳ねる。

「っと」

 ローラの手の上に自らのそれを重ねて、跳ねた液体を手の甲に浴びる。眉をしかめたアレフに、ローラは見る見る顔を青ざめさせた。

「アレフ様、火傷を」
「大丈夫です。俺の手の皮は分厚いですから」

 重ねた手を持ち上げて、ローラに火傷がないことを確認するや、アレフはやれやれと器用に片眉を持ち上げて見せた。

「やれやれ。べたべただ」

 手についた、黒褐色の液体を舐める。

「甘っ」

 てっきり苦い物だと思っていたので、その甘さは逆に脳にしびれた。

「砂糖を入れました。疲れに効くそうです」
「そうですか…」

 アレフの脳裏を掠めたのは、材料のコストだ。

「アレフ様、最近お疲れのご様子でしたので…」

 もじもじとエプロンの裾を弄ぶ姿を、誰のせいだとアレフは半眼で睨む。ローラは気付かず、頬を染めながら上目遣いにアレフを見た。

「少しでも、お元気になっていただけたらと…」

 金食い虫がいて大変なんですよ、とは言えず、アレフは眉間を揉みつつ息を吐いた。

「…仕事を探さんといかんな…」
「えっ?」
「ああ、いや。そろそろ陸地が見えます。次は少し長く滞在しましょう。土地がよければ、腰を落ち着けてもいい」

 細い腰を、汚れていない方の手で抱き寄せる。

「揺れないベッドが懐かしいでしょう?」
「あ…っ」

 抱き寄せて、少し顔を近づけて話し掛けるだけで、ローラは真っ赤になって声をあげる。姫君と言うものは、無自覚に、男を煽るように出来ているのだろうか。
 乱暴に唇を奪って、ぐにゃりと力を失うローラを椅子に座らせる。

「今度の大陸はローレシアというそうです。あなたの名前に似ていますね」

 くすりと笑って、アレフは甲板に向かう階段を上がった。二段目に足をかけた所で、熱い吐息をはくローラを振り返る。

「そのショコラは姫が。俺には少し甘過ぎる」
「え、でも…」
「甘いものはお好きでしょう?」
「…は、い」
「残さず飲んでくださいね。また夜に伺います」

 意地悪そうに意味ありげな笑みを残して、アレフは残りの階段をかけ上がった。
 外は快晴。
 帆は風を孕み、順調に船を新天地へと走らせていた。



2011.2.26
あれ? アレフの口調が戻ってますね(汗)
今更のバレンタインネタで、アレフがほだされてく過程その2です。
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