◆ときめきトゥナイト
□お題外2
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続★偶然? 勘違い?
昼休み、いつもは鳴らない携帯が鳴った。それだけでも驚いたけど、待受の名前を見て更に慌てた。
「ちょっ、ちょっとごめん! いっ!」
慌てすぎて椅子から立ち上がり様机の角に腰骨をぶつける。
「大丈夫?」
と言いながらてを叩いて笑う友人を一睨みして廊下の隅へ。そうこうしているうちに握りしめた携帯電話は大人しくなってしまったけれど、着信履歴欄には間違いなく『江藤緋生』の四文字。
緋生くんだ。どうしよう?
かけ直した方がいいかな。でも、もしかしたら間違えて鳴らしちゃっただけかもしれないし、迷惑かも。でもでも待ってるかも。いや、でも…
♪〜
「ひゃっ!」
驚いた拍子にボタンを押してしまった。
「も、もしもしっ?」
『ひゃ、って…』
わ、笑われてしまった。
『都合悪ければかけなおすよ?』
「ううん。平気。大丈夫」
『ほんと? 良かった』
「うん」
『うん』
……。
電話って、照れる。何を話せばいいのか…。
『あ、あのさ』
「う、うん?」
『…今日、カラオケ、行くんだよな?』
「え? あー、うん」
『参加しなよ』
なんで、君がそんなことを言うの?
「どうしようかな」
『いや、絶対来いよ』
「……」
また、お互い無言。
『(江藤ー! ヤマセンが呼んでる!) あ! ヤバイ! 今行くー! ごめん、雪輝美ちゃん。また!』
「あ、うん」
“また”だって。たったそれだけ。例え社交辞令でも嬉しいの。でも、でも、私、今日、カラオケに行くなんて緋生くんに言った?
「ユッキー、電話終わった? ポッキー全部食べていい?」
「だめ!」
教室を覗いてみれば私の机の上に広げられたお菓子はほとんどの空。クラスメイトの半分近くが手を伸ばしているのだから当たり前だ。
「ちょっと! つぶつぶイチゴ取っておいてよ」
「早く来ないとカナが全部食べちゃうよ」
「カナじゃなくてアカリじゃん!」
きゃーきゃーと騒ぐいつもの昼休み。
そして放課後。
忘れていたけどちょっと憂鬱。学校帰りにカラオケなんて許されないから、学校から二駅移動して駅のトイレであらかじめ駅のロッカーに友達が預けておいた服に着替えて、それからまた電車を乗り継いで待ち合わせにの場所へ。自慢じゃないけど私は比較的優等生なので、全てがはじめてのことで罪悪感で胸が一杯。緊張から気持ちが悪くなってきた。
「ちょっとユキ、大丈夫? ヘーキだってバレないから」
「帰るとか言わないでよね。西菱だよ?」
西菱?
って、この辺りでは有名な中高一貫男子校。確か、緋生くんが行った学校だ。
まさか…
「しかもさ! 今回王子が来るんだって!」
「王子?」
「あー、ユキは知らないか。なんかハーフだかクォーターだかの金髪のイケメンがいてさぁ。写メあるよ。見る?
えーと、名前は、なんだっけ」
「江藤 緋生」
「そうそう。江藤くん! なんだ、ユキ知ってるんだ?」
「…うん」
知ってる。
駅から10分。待ち合わせ場所のカラオケボックスの店前に四人の制服男子が立っている。その中の一人、今朝も見たあの笑顔で、彼が手を上げ、
「雪輝美ちゃん!」
小さく手を振り返した私が友人に「えー!?」と強めに肩を叩かれたのと、緋生くんが回りの男子に一斉に叩かれたり蹴られたりしたのがほぼ同時だった。