◆ときめきトゥナイト

□ときめき お題外
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王子さまとお姫さまは


 いつだったか、小さな頃に両親に手を引かれ、そうとは知らずに王宮に参内した事がある。
 広い広いお城の中も、お父様よりお偉い大王さまも恐くて、カーテンの裏に隠れていたわたくしを綺麗なお花の咲くお庭へと連れ出してくれた男の子。
 その子と遊ぶうちに、それまでの恐怖も感じなくなって、楽しい時間だった。
 いつも屋敷の部屋のなかでしか遊ばせてもらえなかったあの頃のわたくしにとって、その時の時間は新鮮で特別大切な思い出。
 その時遊んだ男の子があなただと知ったのは、あなたとの婚約を聞いた時でした。



 アロン王子さまの婚約者に選んでいただいたことは、魔界の女としてこれ以上ない名誉だけれど、胸の内に密かに住まう淡い恋心は戸惑いに震えていた。
 恋も知らずに、幼い日の思い出だけを支えにこれからの生を生きるのだと思えば、少しは感傷的になりもする。
 人間界から持ち込まれたおとぎ話のように、素敵な王子さまに愛しあい結ばれることを夢見たこともある。はたからみれば、わたくしはその王子さまと結ばれる理想的なお姫さまになれたことになる。家のものは勿論、一族中がわたくしを誇りだと言った。
 一族の期待。魔界の未来。
 恋だのなんだの言っていられないのだということは、言われるまでもない。

 バカだとか頼りないとか散々な噂のアロン王子。
 この方を立派な次代の大王として教育し、優秀な子孫を宿し育てること。それが王太子妃の使命。
 いたかどうかも疑わしい幼い初恋の男の子に心囚われている場合ではない。まずは王子の妃として相応しい娘だと王に、周囲に認めさせなければ!

 けれど

「アロン。紹介しよう。フィラ・ドリュー嬢。お前の婚約者だ」

 大王さまから紹介されたあなたを一目見て気づきました。
 わたくしの初恋の君はあなた様なのだと。
 これを運命と言わずしてなんというのでしょう!

「アロンさま。お会いできて嬉しゅうございます。どうぞフィラ、とお呼びください」

 一族の思惑や魔界に対する義務ではなく、ただあなたに恋する一人の娘として、わたくしはあなたとあなたの名誉を護ります。
 あの日恐くて暗いカーテンの裏から光指す庭へ連れ出してくれたあなた。わたくしの知らない世界へ連れ出してくれたあなたを。

「父上! 僕は認めません! ぼくには心に決めた女の子がいるんです!」

「なに!? そんな話は聞いておらんぞ! どこの娘だ! サンド!」

 慌てて大王様は小姓のサンドを呼びに出ていってしまわれた。部屋に残されたアロンさまは、気まずそうにチラチラとわたくしを見る。

「そーゆーわけだから、きみには悪いけど」

 それでもいい。
 今は、まだ。

「わたくしたち、出会ったばかりですもの」

 会えずにいた時をこれから二人埋めて参りましょう。絆は築いて行くもの。愛情は育つものです。
 大丈夫。
 だってわたくしたちは、運命が結びつけた二人なのですから。

「いきなり婚約だなんて、アロンさまも驚かれましたよね?」
「う、うん。そうなんだよ!」
「まずはお友達になりましょう? 仲良くしてくださいませね。アロンさま」
「うん。それなら」

 ぱっと明るく咲く笑顔が、記憶の中の男の子と重なる。

「フィラはアロンさまをお慕い申しております」
「ん? 押したい?」
「忘れないでくださいね」
「よくわかんないけど、わかった。ねぇ、このあと暇? ちょっと退屈なんだよ。サンドもいないしさぁ」
「お庭で遊びましょうか」
「いいね♪」

 無邪気な笑顔。弾む足。つられてわたくしも早足になる。きっと今、わたくしも笑っているわ。だってこんなにも幸福なのですもの!

「見て見て、フィラ! あんなところにリスがいるよ」
「まぁ、アロンさま。そんなところに登られては危のうございます」
「平気だよ!」

 木に登ったり、小動物を追いかけたり。やんちゃなアロンさまはかわいくて、お側にいられるだけで本当に幸せだった。
 わたくし、アロンさまのためなら何でもいたします。
 ですから早くアロンさまもわたくしを好きになってください。




20170115
さくらさんにリクエストをいただきました。アロン×フィラをメインにしたお話。甘い〜幸せ〜なお話にしたいんですが…(^-^;
フィラさんが腹黒い。書いててDQ1のローラ姫を思い出しました。
とりあえず、この話は続きます!
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