◆ときめきトゥナイト
□ときめき お題外
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じいじと呼ばないで!
ココ姫が妊娠した。
その話を聞いたときは、一瞬めまいがした。
卓はまだ大学生で、親の庇護の下にある。
一人暮らしは始めていたが、独り立ちしているとはとてもいえない。
その卓が、姫さんを妊娠させただ?
はーーー
溜息もつきたくなるさ。
しかし・・・まだ、姫さんだったから良かったのかもしれない。
俺自身、15まで人間として生きて、今迄人間界で暮らして来た。子供達にもただの人間としての生活を送らせて来たつもりだが、それでも俺達が人間でないことに変わりはない。かつて、人間だったおれに、こ、恋した…ごほっ…あいつを、義父母が窘めたように、卓の相手が人間だったなら、おれはその付き合いを諌めただろう。
卓とココ姫との付き合いを、従姉弟だからとか、その他の理由で反対するつもりはない。
王宮を出て一人で人間界まで出向いて来たココの気持ちや覚悟、そして一緒に暮らすまでになった二人に、わざわざ本気の程を確かめるつもりもなかった。いつかは、所帯を持ちたいと言ってくるだろうと、アロンとも酒の肴に話したこともある。しかしだ、いきなり妊娠とは…
おれが古いんだろうか?
いやしかし、順番が逆だろう!?
だからといって結婚に反対するとかではなくて、勿論堕胎しろなんて思ってもいない。
生活はどうするんだとか、学校や仕事はどうするんだとか、アロンにはなんて言えばいいんだとか、・・・あー! とにかく頭の中はぐるぐるしてる。
腕組んで、眉間に皺寄せて難しい顔してるけど、孫ってやつは純粋に嬉しいもんなんだろうとか、いつか愛良も嫁に行くんだろうとか、とにかくおれは混乱していたわけだ。
それを…
「ココちゃんも娘になるのね、嬉しい♪ 新居はどこにする? あんまり遠くに引っ越しちゃやーよ? お手伝いにいきにくくなっちゃうし、寂しいわ。あ、そうだ。どうせなら暫くうちにいたらどうかしら? そのまえにお式よね! お腹が目立つ前に、ドレス着ましょ♪ 忙しくなるわよ〜! でも楽しみ! わたしね、若いおばあちゃんになるのが夢だったの♪」
こないだの昼ドラの影響だろ…
「女の子がいいわ♪ それで、ばあばって呼んでもらうの!」
それもドラマだよな…
当の卓とココはお前の勢いに思い切り引いてんじゃねーかよ。
「あなたはじいじね♪」
ナニ?
”ばあば”とくれば”じいじ”か。そりゃそうかも知れんが…
もう少し他に言いようってもんがあるだろ?
「あ、や、おれは…」
「ばあばにじいじ! とても可愛い響きね。おばさま!」
「いやだわ。ココちゃん。もう、お・か・あ・さんでしょ?」
「あ…。は、はい。おかあさ、ま…」
おれの手は人知れず空を掴み、誰もおれの話なんざ聞いちゃいない。
照れながらも嬉しそうなココ姫と、ひとり大はしゃぎの妻とに、おれはひそかにため息をついた。
孫…。
じいじ、か…。
柔らかく暖かな何かが胸の内に沸き上がるとともに、若さを吸い取られるような、激しい倦怠感が、おれの全身を襲っていた……
2009.10.15
拍手おまけより引越