◆ときめきトゥナイト
□ときめき お題外
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■袖
裏でどんな取引があったのかは知らないが、急遽決まった高校進学。
入学式を前日に控える今日になって、ようやく制服が届いた。
スカートのしつけを外して、クローゼットにかけた濃紺の2ピースを、蘭世は感慨深く見つめていた。
憧れていた、学校というものに通わせてもらい、あの人に出会った。
当たり前のように好きになった。
今ではそれも定めだったのだと、知っているけれど、二千年前とか、前世とか、そんなもので片付けてしまいたくはない。
今の彼を好きになったのは、今の自分。
今、彼の側にいるのは、今の自分の意志なのだから。
「二年、遅れちゃったけど…」
同じ学校に入りたくて、苦手なお勉強も頑張ったんだっけ。
つ、とブレザーの袖に触れる。つるんとした肌触りが、なんだか無償にくすぐったい。
何の疑問も持たず、みんなと同じように高校を受験し、中学を卒業して進学するんだと思っていた。
彼が魔界人だとわかってからは、現金なもので、学校に通うことなんて考えもしてなかった。
悠久の時を、共に過ごすのだと、無意識に信じていたのだろう。
今はもう、それも叶わないのだけれど。
そのことを思うと、少し不安になる。
二人のこれからを考えるのが、たまらなく不安になるのだ。
「おっと、いけないいけない!」
我知らず抱きしめていた制服を慌てて離す。皺を延ばしてかけ直した。
「鞄も出しておかないとね!」
鏡に写った冴えない顔に喝を入れる。
鞄の入った箱を取りに行く際、窓越しに見慣れた人影が見えた。
「真壁くん!」
窓を開けて呼び掛ければ、ランニング帰りらしい青年が、はにかんだように微かに笑って片手を上げる。
それだけでもう、先程までの不安は心の片隅に追いやられてしまうのだ。
「走って来たの?」
言わずもがなの事をきく。我ながら馬鹿な質問だ。
「ああ。体が鈍ってるからな。おまえもどうだ? ダイエットになるぜ?」
「んもうっ!」
皮肉な笑みを口の端に刻む青年に、拳を振り上げて見せる。彼はぷっと吹き出した。
「待ってて! 今行くから!」
「え? いいよ。おいっ」
制止の声には構わなかった。長い髪を翻し、部屋を飛び出す。
ちらりと視界に入った濃紺のブレザーに、心の中で呟く。
不安になってたって仕方ない。今は側にいられる。また同じ学校に通える。それで、それだけでいいじゃない。
「そうよ。不安になってたって仕方ない」
確認するように、声にだして呟いた。声にすることで、思いは力に変わる。
今の彼も、今の自分も、間違いなく、ここにいるのだから。
勢いよく開け放ったドアの向こう。律義に彼は待っていた。にやりと笑うのは、二千年前の王子様なんかじゃない。
「真壁くん!」
気持ちを、言葉にしよう。
「だーいすき!」
春の日差しそのままに、曇りのない笑顔を向けられて、俊が真っ赤になったのは、二人だけの秘密。
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タイトルにあまり意味はないような…
制服の色ってもしかしてダークグレーじゃないか?なんて思いましたが、直してません!居直り!
結びの文に悩みました。
なんかしっくりこないんですけどって、書いた奴が言ったらいかんがな。
イベントの小説掲示板にUPしたかったのですが、日にちもあまり残っていませんし、機械オンチなもので断念しました〜(T-T)
かるさん、ご迷惑かけて申し訳ございませんでした!!
イベントの準備や総轄、お疲れ様です!&ありがとうございました!
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2008年10月制服祭:再録