◆ときめきトゥナイト

□ときめきお題
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雨の日のお迎え


※拍手リクエスト 高校生蘭世バージョンを見切り発車でお送りします(笑)



 窓を叩く雨の音に、蘭世はほぅっと息を吐いた。
 秋雨前線とやらの影響で、ここ数日は雨続き。
 一雨ごとに寒くなり、なんとなく寂しくなる秋。
 こんな夜に降る雨は嫌いだ。

(寒い…)

 編み棒を握る指先が冷たくて、そっと自分の手を抱きしめる。
 何年も前から編みかけのセーター。
 編み始めたときと、自分の想いは変わらない。
 変わったのは、彼との距離だ。
 すぐ側にいるのに、心に距離があったあの頃。
 彼の気持ちがわからずに、一方通行の恋なのだと心揺れた日々。
 今は、逆だ。
 ようやく自分に、彼の気持ちに自信が持てた。
 大切な恋である事に違いはないけれど、そこには些細なようで、実は大きな違いがある。
 愛されている。
 その想いに満たされていく一方で、どうしようもなく寂しいのだ。
 こんな、静かに雨の降る晩は。特に。
 蘭世はもう一度溜息をついて、編み掛けのセーターを置いた。

(こんな雨だもの。真壁君、アルバイトはお休みよね…)

 会いに行っちゃおうかな。

 いつものお弁当の差し入れは、雨だからと学校帰りに済ませているから、俊のアパートを訪ねる理由はないのだけれど。
 夜にアパートを訪ねることは、危ないからと止められているのだけれど。

(ちょっと顔を見るだけなら、いいよね?)

 自分で自分に言い訳をして、蘭世は上着に袖を通した。

「ちょっと出かけてきまーす!」

 書斎に居るであろう父に声を掛けて、傘を片手に玄関のドアを開く。

(コンビニまで、ちょっと消しゴムを買いに行くだけ。そうよ。ついでに真壁君のアパートを覗くだけなんだから)

 うんうんと内心で頷いて、ふふりと蘭世は微笑んだ。
 傘をやや前に傾けながら歩き出したその瞳に、見慣れたスニーカーが写る。ポーチライトの明かりをさえぎって落ちる影に、ぱちくりと瞬きを2回。

「ったく。お前って奴は…」

 雨音に混じって落とされた溜息に、蘭世は勢いよく顔をあげた。

「真壁くん!」

 そこに居たのは誰あろう。
 今から会いに行こうと思っていたその本人だった。
 驚くよりも、夜の外出の言い訳を考えるよりも、まず会えた事の嬉しさに顔がほころぶ。

「よっ」

 何もかも判っているような顔で、やれやれと俊は苦笑したようだ。
 真っ黒な傘をたたんで、蘭世の肩を抱いて玄関のひさしに入る。が、家の中には入ろうとしない。

「どうして?」

 どうして会いに来てくれたの?
 と、嬉しさから覚めて次に感じたのは驚愕だった。
 俊は、ぽかんと自分を見上げる蘭世を横目でちらりと睨み、組んでいた腕を解いて彼女の鼻をピンとはじいた。

「いだっ」
「お前、いくつ消しゴム買い込むつもりなんだ?」
「え? えぇぇぇっ? ヤ、ヤダ真壁くん、いつから聞いてたの!?」

 俊は真っ赤になる蘭世にふっと笑みを零し、蘭世の問いには答えない。

「夜は出歩くな、って言ったろ? しかもこんな雨の日に」
「う…ごめんなさい…へっくし」
「…ったく、言わんこっちゃない。大丈夫か?」
「えへへ。うん。平気」

 ずるっと鼻をすする蘭世の髪を、ぽんぽんっと俊の大きな手が撫でた。
 上目遣いに見上げてくる蘭世の視線から逃れるように、その手は蘭世の頭におかれたままだ。

「…俺が、来るから…」

 反対を向いてぶっきらぼうに呟かれた言葉に、蘭世は「えっ?」と微かに声を漏らす。
 俊の指の間から見える彼の表情は、薄暗い中でも判るほどに照れていた。

「……だから、お前は家に居ろ! 判ったか?」
「はいっ」

 ぐりぐりと頭を撫でられて、蘭世はびくりと肩をすくめた。
 よしっと頷き、手を引っ込める俊の表情を盗み見て、蘭世はくすりと笑った。

「なんだよ…」
「べっつにぃ〜」

 くすくすと笑い続けて、蘭世は思う。

(ね、真壁くん。わたし雨の日が好きになりそうよ?)

 そっぽを向いた俊が、頬を赤くしてごほりと咳払いをひとつ。

 あいているほうの腕を抱え込んで、蘭世は未だ降り止まぬ雨空を見上げた。
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