◆ときめきトゥナイト
□ときめきお題
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18. 雨の日のお迎え
ここは私立星ヶ丘幼稚園。わたしは保母3年目の、野理子。
今年ようやく担任を任されることになり、仕事がぐぐんと増えました。
子供は好きだけど、年々保護者の方の要望も増えてきているし、女社会の職場でかなり気疲れしてしまいます。
これなら事務でもしてた方が遊べたし楽できたなーなんて思ったりもして、真面目に転職も考えています。
「野理子せんせー! おはようございます!」
「あいらちゃん。はい、おはようございます」
真っ黒な長い髪を二個結びにした真壁愛良ちゃん。年中さん。
今日もお兄ちゃんと登園か…
普通させる?
幼稚園児を見てると、ものすごい大きい子に見えるけど、お兄ちゃんだってまだまだ小さい子供の部類に入る年齢よ?
そんな子に幼稚園児の送り迎えさせるなんて…
話によると、愛良ちゃんのお父様はボクシング選手。
どうせ、高校もろくに出ていないようなヤンキー上がりだわ。
母親もきっとヤンママよ。お兄ちゃんだって金髪に染められちゃって…
まったく。子供は親を選べないんだから可哀相よね!
「野理子せんせー!」
「風くん。おはよう」
「おはようございます」
お行儀よく挨拶してくれたのは神谷風くん。良家のおぼっちゃんらしく、お行儀がよくてかわいいわ〜
でも、双子の神谷夢々ちゃんは勝ち気でプライドが高くて扱いにくい。
「はーい、みんな。お部屋に行こうねー」
わたしが受け持つさくらぐみの問題児達。今日は誰とも喧嘩しないでね…
わたしの願い虚しく、午後の自由時間に夢々ちゃんが愛良ちゃんを泣かした。
愛良ちゃんのネックレスを夢々ちゃんがひっぱって壊してしまったらしい。
引っ張ったのはいけないけど、幼稚園にネックレスなんて着けて来させるのも問題だ。ここはきちんと親御さんを注意せねば!
午後から降り出した突然の雨に、お迎えは玄関での引き渡しに変更された。
「夢々ー、風ーっ、帰るわよーっ」
「ママー」
「まったくやーね。いきなり雨が降ってくるんだもの」
「愛良ちゃんが悪いのよ」
「へ?」
「あの子が大声でないたら急に雨になっちゃったんだもの。絶対あの子のせいよ!」
夢々ちゃんはお母さんに愛良ちゃんのことを言ってる。
あー、ほんと。仲悪いんだなー
喧嘩の事でどうこう言われる前に帰しちゃお。
「夢々ちゃん、風くん、さようなら」
「野理子せんせい、さようならー」
にこにこ手を振って神谷家の双子が帰っていくのを見送っていると、園庭ぎりぎりに白いセダンが停まった。
む、危ないじゃない! 非常識な!
「きゃ♪」
?
先輩が小さく浮かれた声を上げた。不振に思ったけれど、車から下りて来た男の人を見て納得。
息が止まるかと思った。
それくらい、も、とびきりのイケメン! 素敵過ぎる!
その人は、雨の中、傘もささずにまっすぐこちらに向かってくる。
キャー! どうしよー!
「真壁ですけど、愛良は?」
…
…
…
…え?
と、いうことは…?
この人が、愛良ちゃんの!?
全然ヤンキーぽくなんかない! どことなく気品があって、色っぽくて、所帯じみてないし、ええーなんで園児の父親なのー!
超好みなのに!
「あの、すみません。先生?」
「はっ! すいませんっ。あの、愛良ちゃん、お友達と、喧嘩しちゃって。すぐっ呼んできます!」
うはー!
キンチョー!!
「愛良ちゃん。おとうさまがお迎えにいらしたわよ」
愛良ちゃんはまだくすんくすん泣いている。でもいいよ! あの人の子なら!
「おとうさぁん」
「どうした」
愛良ちゃんのお父さんは、軽々と愛良ちゃんを抱き上げると「じゃ」と会釈して、やっぱり傘もささずに背を向けた。
「は、はいっ」
ああ、後ろ姿もス テ キ。
気付けば他クラスの先生や園児のお母さん方もぽーっと愛良ちゃんのお父さんを見詰めていた。
ライバルは多いわ。
その日から、雨の日のお迎えが楽しみになった。
雨の日はたいてい愛良ちゃんは泣いていたけど、そんな日こそお父様のお迎えなのだもの!
不謹慎だけど、ナマ父に会えるなら愛良ちゃんには泣いてて頂きたいくらい。
あんまりステキだから、つい興味のない格闘雑誌なんか買っちゃったりして…
真壁俊のファンクラブに入っちゃおうかな〜♪