ドラクエ3
□明けぬ空を背負って(本編2)
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宿を引き払って、雇用先の酒場に移ったのがその日の昼。
夕食時になってもレイモンドは現れず、問題の一夜についての報告は、アレクシアひとりの口から三人になされた。
アレクシアがその神殿へ消えた経緯についてはディクトールが説明したが、おそらく大地神ガイアの神殿であろうそれが何の為に建てられたのか、なんらかの魔法的な手段で隠されている意味、そして何故アレクシアとレイモンドが遺跡に招かれたのかは、結局わからず終いだった。
――アレクシアの説明からは。
アレクシアの話を要約するとこうだ。
「気付いたらそこにいて、何故かわからんがレイもいて、よくわからないうちにその珠を手に入れた、と」
どこか緊張している様子のアレクシアを、セイはふむと腕組みして見遣る。
「う、うん…」
両手で包むように持ったジョッキから、気の抜けたエールを一口含む。その様子といい、はっきりしない返事といい、アレクシアがなにか隠しているのは明らかだ。
セイはちらりとディクトールと視線を交わし、小さく息を吐いた後で、アレクシアの目を見詰めた。
「アレク」
「ん?」
セイを見詰め返す蒼い瞳には、恐れはない。真っ直ぐに、セイを見詰め返してくる。
なにか言いづらい出来事があったのだとしても、それはセイやディクトールが心配する類の出来事では無いことだけは確かなようだ。
「…まぁ、いいさ」
組んでいた腕を解いて、胸に溜まっていた息を吐き出す。
「レイモンドが来たら、奴にも聞いてみるか」
話は終わりだとばかりに、料理に手を延ばし始めたセイに、リリアはやや不満そうな表情を見せたが、ほっとしたようなアレクシアとディクトールを見ると、やれやれと肩をすくめてセイに倣った。
アレクシアとディクトールの見せた安堵の表情。そこに込められた意味は、アレクシアとディクトールとでは深刻さの度合いにおいて全く異なる。
それを理解するからこそ、不用意にその問題に触れることを、セイも避けたのだろう。
それから数日、レイモンドは酒場に現れなかった。
ようやく現れても、あの夜のことについては全く触れようとはしなかった。一言でも尋ねようものなら、途端に不機嫌になり姿をくらましてしまう。自然セイたちもあの夜のことには触れなくなり、ただ無為に時だけが過ぎていった。
けれどもその冬は、5人の若者にとっては掛け替えの無い、貴重な季節となる。
その日の糧を得るためだけに朝起きて、明日の糧を得るために眠りにつく。
たったそれだけの単調な日々の積み重ね。
その中で若者は、どれほど多くのものを学ぶのか。
これまでの生活で忘れかけていた日常。
他愛のないやりとり、命の危険を感じずに眠りに就くことの出来る、安息。
故郷アリアハンを出て一年。
人らしい感覚を、彼らが思いだしかけていた頃、その事件は起こった。
本当はランシールで高校生的バカ話をやりたかったんですが、実力不足で断念しました。
後半の語りの後ろに、きゃっきゃうふふな若者らしい5人の姿を想像して読んでくださいね?←
次ページから「若者の日常編(?)」です。