ドラクエ3
□明けぬ空を背負って(本編1)
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14.東へ!
ピラミッド探索を終えた、アレクシア達一行は、イシス女王に謁見の後、ロマリアへ飛んだ。
ロマリア王へ謁見し、ポルトガとの国境封鎖解除の許可を得る為である。
謁見自体も、封鎖解除の許可も、呆気ないほどあっさりと下りた。
性懲りなく王位を譲ると言い張るロマリア王に、逃げるように王城を後にした。その足で、国境に向かう。
国境を警備していたロマリア兵の元には、アレクシア達が魔法の鍵を持って来たら通すようにとの命令が既に届いていた。
アレクシア達がイシスに旅立ったとき既に発せられていた命令だというから呆れる。
何の問題もなく国境を越え、ポルトガについてみれば、今度は王直筆の手紙を渡されて、バハラダへ黒胡椒を取りに行けという。
バハラダへ行くには、アッサラーム東の山道を越えねばならない。
「なんだか、世界中をお遣いにやらされているようだ…」
ロマリアへの帰路、憮然とアレクシアが呟いた。
「というか行商か?」
からかうようにセイが振り返る。
「船手に入れて、ポルトガとバハラダを黒胡椒の輸入で行ったり来たり。護衛もいらない我らアリアハン勇者商会♪」
「不謹慎だよ。セイ」
困惑顔でディクトールに咎められたけれど、セイは節をつけて即興の「勇者商会歌」を唄っている。
「ま、確かにお金は貯まったわよね」
「リリアまで!」
ポツリと呟くリリアにディクトールは頭を抱えそうな勢いで落胆した。
仲間たちのやり取りに、アレクシアはふっと表情を和らげる。
魔王退治。
世界救済。
御伽噺のような朧げな目的の旅に、ついてきてくれた仲間達。
いつそこの草むらから危険な魔物が出てくるかもしれないのに、平気な顔でふざけあい、大声で笑う仲間達。
彼らがいたからこそ、ここまで自分は生きてこられたのだろう。
「うん。それもいいな」
歌っていたセイが、ぎょっとして立ち止まる。
ディクトールとリリアも、目を瞬いてアレクシアを見た。
「な、なにが?」
「行 商 !」
「ああああアルまでぇぇぇ」
絶望的な声を上げて「神様」と印を切るディクトールの横を、声を立てて笑いながらアレクシアはすり抜ける。
「目指すは世界一の大富豪だ」
「いいわね」
貴婦人にするように、恭しくリリアの細い手を取った。
ふわりと微笑みを交わし、踊るような足取りでエスコートすると、その手をセイに押し付けて、しっかりと握らせた。
「ついでに魔王も倒して世界最強の行商人になるか」
ぽかぁんと口をあけているセイに、アレクシアはにやりと笑いかけた。
仲間たちを追い越して、秋の風になびく草原に立つ。
当てのない、見返りも望めない不確かな旅に着いて来てくれる、大切な仲間たち。
彼らのために、自分はなにができるだろう。
振り返ると、セイとリリアが口喧嘩をしていて、困惑顔のディクトールが仲裁している。
いつもの風景に、自然と笑みがこぼれる。
大切だと、素直に思えるのに、そこに何か、足りないものがあるような気がしてならないのだ。
心の中に、欠けたピースがある。
その欠片が何なのか、これから先の旅が教えてくれる。
そんな気がした。