ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編4)
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 ラダトーム城の対岸に見えるのが、大魔王ゾーマの居城である。かつてそこは、精霊神ルビスを祀る神殿だったというのだから皮肉な話だ。
 今でこそ常に真っ黒な瘴気に覆われ、蛇のように稲妻の走る海峡だが、もともと海流激しく、船で渡るのは不可能だという。それでも信仰の中心なので、陸路でのルートはひらかれていた。ラダトームから東へ、マイラ、リムルダールと南下していくルートだ。マイラもリムルダールも、観光地の色が濃い。特にマイラは温泉地として、魔物が跋扈するようになった昨今でも人の往来は絶えてはいなかった。問題なのはマイラからリムルダールに向かう海峡大橋がゾーマ出現と前後して起こった地震によって崩落し、通れなくなっている点である。

「波はそんな複雑じゃねぇから、船で渡れなくもねぇ」

 とはガライである。
 結局ガライは、アレクシア達と行動をともにしている。曰く、吟遊詩人として勇者の旅に同行し、冒険譚を語り継ぐのが目的らしい。なんのために故郷まで送り届けたのかと、レイモンドに字通り蹴飛ばされたのだが本人は気にしていない。
 ラダトームに到着するや、ガライは一同とともに国王への謁見を願い出、叶っている。いつもの訛りは何処へやら、流暢な標準語でアレクシア達の正当性を王に説き、晩餐に歌を添え、王家に代々受け継がれてきたという神器‘太陽の石’を借り受けた。王によると、神器は5つあるという。ガライの竪琴、マイラの笛、ラルスの石、リムルダールの杖、そして失われた月の雫。今その2つが、アレクシア達のもとにある。

「魔王などというものが現れるまでは、おとぎ話だと思っていたよ」

 という王に、ガライもうんうんと深く頷いていた。魔王が現れて、親から聞かされた寝物語がただの物語ではないと知った。それならば魔王を打ち倒す勇者も居るだろうと国一番の戦士や騎士や魔法使いを魔王討伐に向かわせた。しかし彼らは二度と戻っては来なかった。ならば神話になぞらえて、上の世界からの来訪者こそが勇者に違いないと、彼らは何年も待った。そして今、ようやく、待ちに待った勇者が目の前に現れたのだ。
 アレクシア達の手を一人ひとり取って、王は涙ながらにルビス神への感謝の祈りを捧げた。旅の援助は惜しまないと、ラダトーム滞在中の宿に城の一角を用意するとも言ってくれた。感謝を述べながらもアレクシアが王に望んだのは情報提供で、城に仕える神官や学者達への聞き取りの許可は得たものの、ガライや国王以上の実りある話は聞くことができなかった。
 アレクシアとレイモンドの中に残る記憶を、すべて引出せれば良かったのだが、本人の記憶とは言い難い上に都合良く思い出せる訳もない。結局は行く先々で人々から話を聞いてまわるしかないだろう。改めて、旅の拠点をアレフガルドのほぼ中心に位置するラダトームにすることが決まった。
 本物の勇者がオルテガを探しているという噂も広まるだろうし、王城に頼りをくれと行く先々で託けていけば、オルテガの消息も知れるもしれない。
 オルテガとて、魔王討伐の旅をしているのだ。アレクシアの旅路は、必ず父の旅と重なるはずである。旅をしていれば人の集まる集落に少なからず立ち寄るはずで、幸か不幸か、アレフガルドには人の住む町や村はもう多く残っていない。魔王城を目指すなら、このままマイラへ向かうのが筋なのだが、ガライが預言者を先に尋ねるべきだと強く勧めるので、メルキドを目指すことになった。

「で、そのメルキドはどこだよ」
「オラも行ったことはないもんで」

 地図を広げて、ガライはこのあたりだと指差す。

「ドムドーラを超えて、砂漠と岩山を超えた、険しい土地だという話だ」
「でも、封鎖されてるんだろう?」
「んだ」
「どうやって入るのよ」
「知らん」

 ラダトームでは、メルキドの噂はほとんど入ってこないらしい。どうしたものかと腕組みするアレクシアに「眉間にしわが寄ってるよ」と苦笑してから「今も旅人が来るのはマイラなんだろう? マイラまでは一日ほどの距離だと言うし、マイラまで行ってみたらどうかな」と言うディクトールに一同は成程と頷いてマイラまで海路をとった。

 
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