SW冒険の記録

□はじめに
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 最初の部屋を出るとそこは少し広い真四角の部屋で四方に扉がある。メスロンの言うとおり右側の部屋に入ると、いきなりカルスの魔法の光とウィルオウィプスが消えた。ダークネスの魔法がかかっていたのか、闇の精霊シェイドがいたのだ。カンテラの灯りの中で、部屋の奥からカチャカチャと音を立てて現れたのは赤い色をした5体の武装した骸骨兵士。

「竜牙兵!」

 叫んで戦士たちが前に出る。竜の牙を材料に魔法で作られるパペットだが、その剣の腕前は熟練の戦士に匹敵する。一年前のジェイムズならば苦戦したかもしれないが、アルレーネもアルハモンドも、一人で一体の竜牙兵をあしらってまだ余裕がある。戦士たちが一体屠る間に、残りの2体はダニエルが引き受け魔法使いが集中攻撃を加えて破壊する。着実に数を減らして、危なげなく竜牙兵を片付けた。

「赤い」

 残骸を手に、見ればわかることを呟いたメスロンに、仲間たちは首を傾げるばかりだ。

「ということは」

 言いながらメスロンは元来た道を戻っていく。慌てて追いかける仲間たちにメスロンは左の扉の前でエアリエルにシェイドを呼び出すように指示をした。意味もわからず言うとおりにする。

「罠は無いよ」

 あるはずがない。開けた瞬間にその部屋からはウィルオウィプスが溢れてくるのだから。

「ぎゃっ!?」

 闇の精霊と光の精霊。相反する存在は同じ場所に存在できない。光の精霊はダニエルの体にあたって弾ける前に闇の精霊と相殺された。

「右手にファラリス。左手にファリス」

 興奮した面持ちでメスロンは懐紙を取り出して見取図を書き始めた。これまで通ってきた部屋だ。

「おそらくですがほぼ正解でしょう。石巨人の迷宮はこの迷宮自体を巨人に模した作りをしています。だから頭には神を祀らぬ祭壇があった。魔術師イルライアスの魔法装置を何故炎の心臓と名付けたか? 巨人の心臓に埋まっているからですよ!」

 ばんっ! と左胸の辺にペンを突きつける。拍子にインクが飛び散った。

「そしてこの"巨人"は始原の巨人の伝説を準えている。となれば胸の部分には大地母神マーファを象徴するものがあるはずです」

 メスロンの推測は当たっていた。
 胸に当たる部屋の床は他の部屋と異なり剥き出しの土になっており、掘り返すと石棺のようなものが埋まっていた。石棺には何かを引っ掛ける穴が開いている以外に取っ掛かりがなく、自力で引き上げたり蓋を開けたりは出来そうにない。どこかに石棺の蓋を引き上げるのに使えそうな道具はないかと遺跡の中を探すうちに、一行は裸で眠る少女を見つけた。少女が眠る部屋には眠りの上位精霊の力が満ちている。

「サキュバスだわ。向かいの部屋にはインキュバスがいた」

 寝室らしきその部屋の衣装箪笥には、女物の衣服ばかりがそろっている。インキュバスのいた部屋には男物の衣服。

「この子が魔法生物とか精霊ってことは?」
「ないわね。命の精霊が働いているもの」

 自然に眠っているらしい少女を揺り起こす。目覚めた少女は冒険者達を見て少しぼんやりしていたが、やがて絹を裂くような悲鳴を上げた。エアリエルが落ち着いてと伸ばした手を振り払い、息が続く限り悲鳴を上げながら手近な枕を投げつけてくる。

「これはちょっと困りましたね…」

 キーンとする耳を抑えて顔をしかめ、メスロンは少女の背後に回ってサニティ〈平常心〉の魔法を唱えた。

「これでだめならマーファ神に〈平和〉を請うてみましょうか」

 ラーダの司祭が冗談をいうのも珍しいので、存外本気かもしれない。
 ともかくメスロンの魔法は功を奏したようで、少女は怯えた目をしながらも息を整え一行を見た。

「あなた、お名前は? なんでこんなところにいるの?」

 ダニエルが見繕った服を少女に着せかけながら、努めて優しい声色でエアリエルが問う。厳つい成りの男どもは、少女を怯えさせるからと部屋の隅に追いやった。
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