SW冒険の記録

□はじめに
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 アルハモンド·ラージャンスの持ってきた地図を頼りに一行は港町カゾフへ向かい、そこから小舟を使って孤島へ渡った。潮が引いている僅かな時間だけ現れる洞窟の奥にその遺跡の入り口は巧妙に隠されている。
 魔法王国の遺跡だというのに、この手の隠し扉や通路などに設けられた罠は大抵が機械仕掛けだ。動力に魔法を使っているものもあるのかもしれないが、そういったものは魔力の塔が崩壊してからはただのガラクタと化している。
 カストゥールの魔法使いたちも、魔法が万能ではない事を知っていたのかもしれない。
 そのおかげで、ジェイムズ達は難解な機械仕掛けの罠をかいくぐらねばいけないのだが。

「この遺跡が発見されて、未だ踏破されていないのは、罠の難解さと凶悪さにあるのだろうな」

 仕掛け床の犠牲になったのであろう古い遺体にメスロンが簡単な供養をしている間、他の6人は思い思いに休憩を取った。ぽつりとラージャンスがこぼした感想にダニエルは「オイラみたいな優秀なシーフがいなかったからだね」と胸を反らした。
 確かにこれまで探索してきた遺跡や迷宮と比べて、罠は多いし、部屋の構造も複雑だった。しかしこの遺跡の本当の難しさは最後の試練にあった。
 ご丁寧にも最後の試練と書かれたプレートの部屋で一行を待ち受けていたのは、一行とそっくり同じ姿形をした魔法生物だったのだ。
 自分と同じ顔をした人間を、友人や恋人と同じ姿、声の相手を、躊躇なく斬れる者でなくてはこの部屋から生きて出ることは出来ない。

「紐は解かれマナは始原の形に戻る《解除》」

 戸惑うジェイムズの後ろから、カルスが魔術師の杖を偽物に向けた。カルスの形をしていた魔物がぐにゃりと崩れた。乱戦になれば、どっちが偽物かわからなくなると、ダニエルがインク壺を偽物達にぶちまける。

「蠱惑の瞳持つ精霊よ」

 エアリエルの呪文に応えて現れた半裸の娘が、ジェイムズの偽物にキスをする。するとジェイムズの偽物は半分寝ているようなトロンとした目付きで手にしていた武器を取り落とした。

「ジェイムズ、そこのエアリエルを捕まえといてね」
「え? ええ!?」

 言われて慌てたのは本物のジェイムズだ。偽物の方は緩慢な動きで後ろを振り返り、偽物のハーフエルフを捕まえようと腕を伸ばす。偽物のエアリエルは何か魔法を唱えようとしていたらしくその腕に捕まった。魔法の準備さえしていなければ避けられただろう。本物同様、ジェイムズの動きは早くない。
 残ったのはメスロンとラージャンス、アルレーネとダニエルの偽物だ。おそらく一番手を焼くのはダニエルだろう。グラスランナーはすばしっこくて攻撃には当たらないし、魔法抵抗も恐ろしく高い。だが非力故に攻撃力は皆無だ。ダニエル自身が偽物の相手をすることにして、残った偽物3体には残りの全員で当たった。
 5対3では勝敗は呆気なくつき、負けが分かるやダニエルの偽物は逃げ出した。勝負と関係のないところでとっくみ合っていたエアリエルとジェイムズの偽物にはカルスがディスペルマジックをかけて無力化した。

「あんた、自分がやられるの平気なの?」
「自分というものの定義が違いますからね。敵とわかっているものに攻撃を躊躇う意味がわかりません。いいですか、そもそも」

 メスロンが自己と他人についての講義を始めようとした時、部屋の真ん中に男の姿が現れた。向こう側が透けている。幻影魔法だろう。幻影が古代語で伝えたのは、この迷宮が試練の迷宮と名付けられた迷宮であり、迷宮を作った古代魔法王国カストゥールの貴族が試練を乗り越えた蛮族に褒美を与えるというものだった。
 アルハモンド·ラージャンスの目的は、没落したラージャンス家を再興することである。その為の原資を、彼はこの古代遺跡に求めやってきたのだ。

[汝の望むものを与えよう]

 という古代魔法王の貴族の幻影に、ラージャンスが一歩踏み出そうとしたその瞬間に、カルスがその肩を掴んで引き止めた。

「なんだ?」

 怪訝そうなラージャンスに

「あんたまさか、"山程の財宝を寄越せ"なんて言うつもりじゃないだろうな?」

 会話は現在の共通語なので、幻影にはわからない。幻影が話す言葉は古代魔法王国での共用言語である下位古代語だ。

「家を復興するに足る莫大な財産、ではだめだろうか?」
「曖昧すぎるだろう。それに、文字通り莫大な財産が出てきたとしてもそれを持ち出す術が無い」
「そうか…」

 むむむ、と冒険者たちは考え込んだ。そもそも彼等の常識と、古代魔法王国の貴族の常識が同じわけがない。
 試しに100万ガメル相当の宝石、と伝えてみた所、ガメル銀貨の概念がなかった。
 魔法が付与された武器や防具は非常に高価だが、それでも家を復興するには全く足りない。
 そこで彼らは持ち運べる大きさの魔法の道具で、且つそれ自体が財を生み出すもの、という条件を考えついた。
 よかろう、と重々しく頷いた幻影が光輝いたかと思うと、そこには一本の奇妙な杖が残された。手に持つと、幻影が使い方を教えてくれた。杖の片側に空いた穴に手頃な石を入れ、魔力を込めると魔晶石になるのだという。
 古代魔法王国での通貨は魔晶石だ。今では使い捨ての魔力電池として重宝されている。古代遺跡でよく手に入るものではあるが、冒険者にとっては必需品とも言えるアイテムなのでそもそもがあまり市場に出回らない。為に高価なものであった。実用にも長けているし、無限に魔晶石が作れるならば時間はかかるが財産も作れる、と冒険者たちは喜んだが

「これ、ひとつ作るのにえらい疲れるな…」

とラージャンスがこぼしてわかった。石ころを魔晶石にするには、使用者が魔力を込めなければならない。魔力の塔から無尽蔵に魔力が供給されていた魔法王国ならばいざ知らず、現代はマナが薄いとされる時代。個人個人が持つマナの量には当然限りがある。
 試しにラージャンスが作った魔晶石の魔力含有量は少なく、ダニエルが作ったときは魔力含有量の多いものが作れた。

「オランの魔術師ギルドなら高く買い取ってくれるんじゃない? 需要がありそうだもん」

 それでも家を再興するにはとてもたりないだろうが。
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