SW冒険の記録

□はじめに
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 探求者の試練を乗り越えたものの、ラージャンス家復興の夢には程遠いアルハモンドは、その後もジェイムズ達と常に、ではないが一緒に行動することが多くなった。一人で出来る遺跡の探索など、たかが知れているからだ。
 カゾフでの冒険から何ヶ月かたったある日、アルハモンドは鼻息荒く一同の前に現れて言った。

「石巨人の迷宮へ行こう!」

 寝耳に水の一同に、落ちた都市レックスの麓の街パダから三日ほど行った場所にその遺跡があるのだと説明した。どこからその手の話を仕入れてくるのか、当然ながら未踏破の遺跡である。

「石巨人の迷宮かぁ」

 殻を剥いたナッツを口に放り込み、ポリポリと咀嚼しながらダニエルは愛用のリュートを引き寄せた。そして

「草萌ゆる明るき丘の下
 水涸れし昏き井戸の底
 血に飢えし巨人横たわり
 愚かなるを人を嘲笑う
 されどその目はただ虚ろなり
 いかなる神も住まわず

 右手には血塗られた骨握り
 左胸に燃える石抱いて
 血に飢えし巨人横たわり
 小さき人を嘲笑う
 されどその身は固き石なり
 いかなる血も流れず」

 と奏でた。

「知っていたか」
「オイラの知っている物語が同じものならね」

 アンフランの丘の地下にある、古代王国時代の偉大なる魔術師イルライアスが、危険な魔力を持った秘宝「炎の心臓」を愚か者の手に渡るのを防ぐために造った迷宮を石巨人の迷宮と呼ぶ。多くの冒険者たちが挑戦したが、皆失敗し生きて帰った者はほんの数人程度しかいないと言われている。
 その炎の心臓を求めて石巨人の迷宮へ挑もうと言うのだ。
 説明を聞いて、カルスは嫌な顔をした。

「正気か」
「危険を避けて成功など手にできようはずもない!」
「うん、まぁ、わかるけど…」

 カルスが乗り気ではないのは最近オランにいい人ができたからだ。当面困らないだけの金もある。周りに認められるだけの実力もある。カルスとしては殊更危険を冒す必要はもうないのだ。

「面白そうですね! 迷宮の謎を解いて、その秘宝とやらを拝んでみたい」

 メスロンは目をキラキラさせて身を乗り出した。
 メスロンがこうなっては行くことは決定だ。

「それに俺達はラージャンス家の復興を手伝うっていう依頼の途中だからな」

 諦めろ、とジェイムズはカルスの肩を叩いた。



 旅支度を整えてアンフランの丘があるイルデブランドの村までやってきた一行は早速騒動に巻き込まれる。この村に住む少年が父親の敵を討つと石巨人の迷宮へ馬で向かったというのだ。少年の父親は冒険者で、半年前に石巨人の迷宮へ挑み戻らなかったのだという。村長と母親に懇願され、一行は村で馬を借りて少年、ジェスレンの後を追った。
 アンフランの丘には草が生い茂り、迷宮らしい建造物は見えない。あるのは枯れた井戸だけだ。

「草萌ゆる明るき丘の下、水涸れし昏き井戸の底」

 迷宮の歌を口ずさみ、ダニエルが小型カンテラを腰に吊るし器用にロープを伝って井戸を降りてゆく。念の為と、エアリエルが呼び出した光の精霊がついていく。途中、ロープを切断する仕掛けを見つけて処理をしておいた。ロープを降りている途中でロープを切られてはたまらない。
 降りた先には案の定、ジェスレンが使ったらしい切られたロープが落ちていた。
 ダニエルのロープを伝って、なんとか全員が降りてくる。自力で降りるのが危なさそうなメンバーにはカルスがフォーリングコントロールの呪文を掛ける。魔晶石には余裕があるので、魔法は使い放題だ。
 井戸、に擬態された迷宮の入り口だ。真四角に切り抜かれた石造りの部屋である。部屋の中央にはなにかの祭壇が祀られていた。
 ウィルオウィプスとカンテラの灯りだけでは心もとないと、カルスが杖の先に魔法の明かりを灯す。充分な明かりのもとで、メスロンがその祭壇を調べたが、神の紋章も御名も何も祀られていない。

「名もなき狂気の神、なんてことは?」
「いや、言い方が悪かったですね。これは祭壇を模したただの飾りです」
「ちょっと待った、何か書いてある」

 台座を調べていたダニエルが下位古代語の文字列を示す。下位古代語だということはわかっても、ダニエルにはその文字が読めない。古代遺跡に潜る盗賊としては下位古代が読めないのは致命的なのだが、メスロンやカルスは勿論、ジェイムズも下位古代語が読めるので真面目に学ぼうという気持ちにならない。耳で覚えるのは得意だが、文字となるとどうも苦手だ。

「どれ…始原の巨人?」

 始原の巨人とは、この世界、フォーセリアを作り出した創造主である。始原の巨人の孤独に怒れる吐息から炎が生まれ、嘆きの涙が滝となり、血が海となり、躯が大地となった。骸からは様々なものが生まれた。最初に生まれたのは神。頭から叡智のラーダ、胸から大地母神マーファ、聖なる左手からファリス、邪悪なる右手からファラリス、雄々しき右足から戦神マイリー、左足からは幸運なるチャザ。鱗は竜、体毛は原初の森となり、黄金樹から神々は生き物を作った。

「始原の巨人、いかなる神も巣まわぬ…。なるほど!」
「なんだよ?」
「ああ、いえ。まだ推測に過ぎません。進みましょう。そうですね、まずは血塗られた骨握る右手へ!」

 興奮するメスロンに一行はただ怪訝そうな顔を見合わせて、仕方ないと頷いた。
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