◆キリ番の作品

□ときめきのキリリク
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4万Hit ねねちゃんとパパ2
※タイトル、悩んだ揚句未定です。なんかいいの付けてくださる方募集中〜。


「まったくもう! 遅くなっちゃったじゃない!」
「いいじゃねーか。動物園は逃げやしないさ」
「逃げなくても閉まります!」
「はは…」

 真ん中にねねを挟んで手を繋ぎ、口では言い争いをしながら駅への道を急ぐ。卓とココは楽しそうだ。
 頭上で交わされる会話なと気にも止めない風に、左右の手を親に繋がれた子供なら誰でもするように、ねねも嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねている。

「ね! 高くして!」

 自分がジャンプするのに合わせて、繋いだ手を高く持ち上げろとねだる。5歳児の体重を片腕で支えるのは、卓と言えど辛い。急に体重をかけられれば、肩が抜けるんじゃないかと思うくらいだ。それでも、たまにしか出来ない事なので希望に応えてやりたい。卓がココを見ると、ココは心得顔で頷いた。

「それっ」
「きゃー! あははっ」

 着地してもねねの興奮は収まらない。逆にエスカレートしていくようだ。

「もっともっと!」

 3回続けて持ち上げて、親の息が上がる。
 そういえば、と卓は子供の頃の事を思い出していた。小学生の卓と幼稚園の愛良を二の腕にぶら下げて、人間メリーゴーラウンドをやってくれた父親の偉大さが、今になって初めてわかった。

「これで終わりな」
「えーー」
「疲れた」
「じゃ抱っこ」
「何でそうなる」

 がくりと首をうなだれさせつつ、抱っこをせがむねねを抱き上げる。

「ねねは赤ちゃんだな」
「違うもんっっ」

 にやにや笑いながらからかうと、ねねは頬を膨らませて抗議するが、しがみついた腕を緩めようとはしなかった。
 ところが、だ。

「あ!」

 やおら声を上げたかと思うと、急にねねが暴れ始めた。まるで卓がねねを無理に抱っこしたとでも言うように、卓の肩をばしばし叩いて足をばたつかせる。

「下りるー! はなしてー!」
「こらっ、暴れるな! 危ない!」

 道路に下ろされたねねは、シワの寄ったスカートの裾をぱぱっと払って進行方向とは逆――さっきまでねねの向いていた方向――に向けてぴょんぴょんと跳びはね手を降った。

「?」

 顔を見合わせねねの見ている方へ向き直った卓とココは、すぐにねねの様子に納得した。
 ねねと同じくらいの子供が、手を降りながら道の向こうから駆けてくるのが見えたからだ。

「りゅうのすけくーん!」
「ねねちゃーん!」

 子供に遅れること10数歩。親らしき男女が歩いてくるのが見えた。母親同士は互いを認めて手を振りあって挨拶する。

「…幼稚園の?」
「そう。同じクラス」

 親しげに手を繋いでぴょんぴょん跳びはねているねねに、なんだか面白くないものを感じる卓である。

「おはよー! 真壁さーん」
「おはよう、小林さん。お出かけ?」

 幼稚園の送り迎えで毎日顔を合わせる母親同士は茶飲み友達でもあるが、父親同士はほぼ初対面だ。行事で顔を合わせたことくらいはあるかも知れないが、少なくとも卓の記憶にはない。

「おはようございます」
「あ、どうも」

 軽く会釈して挨拶したきり、互いに所在無く妻の後ろに佇んでいる。

「お出かけなんて大層なもんじゃないのよ。旦那が休みのうちに米とか重たいもの買いに行くだけー」
「いいわね。優しい旦那様ですね」

 にこりと、ココが微笑む。ココは社交辞令で言ったのだろうが、小林某はどぎまぎと顔を赤くする。ココほどの美人に笑いかけられて、悪い気のする男はいないだろう。

「ねねはねー、パパと動物園!」

 いいでしょー、とねねがココのスカートに纏わり付いて小林某の倅とその母親に報告する。

「僕も行きたい!」
「また今度ね」
「えー」

 ねねの不用意な発言に臍を曲げた小林某の倅に、ココが慌ててフォローを入れる。

「りゅうちゃん、今度一緒に行こう? おばちゃん、お菓子もってく。りゅうちゃん、何がいい?」
「ポキモン・チョコがいー!」
「ごめん、気を使わせて」
「ううん。ほんとに。今度一緒にいかない? ちかちゃんとかしんちゃんたちも誘って」
「遠足!?」
「ヤッター!」

 子供達のはしゃぎっぷりに、母親同士は笑顔を見合わせる。

「ね?」
「うん。じゃあ今度。またメールするわ」
「うん。ごめんね、呼び止めて」
「とんでもない! こちらこそだわ。じゃね」

 動き出しそうな気配に、夫二人はほっと胸を撫で下ろす。

「すみません、いってらっしゃい」
「や、いえいえ」

 うまい返しが出来なくて、曖昧に笑って会釈する。

「ねねちゃん、またね」
「りゅうのすけくんのママ、バイバイ」
「バイバーイ」
「バイバイ」

 曲がり角で別れても、しばらく子供同士は手を降っていた。だので、卓も仕方なしに笑顔を作って会釈したり手を降って愛想を振り撒いておく。

(つ、疲れた…)

 父親譲りの人付き合い下手が、自分の中にも息づいていたということだ。ああいう場面でどうしたらいいのか、卓はとっさに反応できない。
 ふと、視線を感じてそちらを見ると、ジト目のココと目が会った。目が会うと、わざとらしい仕種でココはぷんっと反対を向く。

「なんだよ」
「別に」
「別に、ってことはないだろ」

 気にしてくださいと言わんばかりの態度が、逆にかわいらしくて微笑を誘う。

「ふんだ。でれでれしちゃって」

 どのあたりがでれでれしていたように見えたのか、是非とも教えてもらいたい。
 あれは困っている人間の表情であって、でれでれしているとは言わない。

「なに? 妬いてんの?」
「なっ!」

 思わずといった風に振り向いたココは、卓を見て耳まで赤くなった。
 卓は、いやらしくニヤニヤ笑ってココを見ている。こんなあけすけな表情、ココにしか見せない。見せたことがない。
 間にねねがいて、さっきから上目使いにこちらを伺っているのだが、構わず卓はココとの間を詰めた。
 ニヤニヤ笑いを近付けて、ふ、と目を細める。
 慌てて前を向いたココに残念そうな顔をしたのもつかの間で、直ぐさま別の悪戯を思い付いた子供のように、瞳に賢しげな光を煌めかせる。真っ赤な耳に、息がかかるほど、唇が触れるほど、近く顔を寄せて、わざと息がかかるように囁きかけた。

「オレがお前以外見る訳無いのに」
「〜〜〜っ!!!」

 ますます真っ赤になって、我慢ならないとばかりにココは耳を覆って卓を見る。その目が涙で潤んでいる。

「パパ! ママをいじめたらダメだよ!」

 相変わらずのニヤニヤ笑いでココに迫っていた卓は、小さな手でココとの間を押しやられた。危うく忘れかけていた存在に、今の状況を気付かされて苦笑いする。

「虐めてないよー」
「ほんとにぃ〜?」
「ほんとほんと」

 わざとらしいくらい疑いの眼差しを向けるねねを、卓は抱き上げて、そのふくふくと柔らかな頬にキスをした。

「だってパパはママのこと、だーいすきだから」
「ば、ばかっ」

 どこっ、と音がするぐらいの勢いで突っ込まれたが、卓は気にしない。
 納得するかと思われたねねだが、ますます難しい顔をして卓の顔を両側から挟む。

「だめ」
「え?」
「ダメよ」
「?」

 思わず足を止めてねねを見る。ねねはきゅきゅっと眉間にしわをよせて、卓の目を真正面から睨み付けた。

「パパの大好きはねねなの。ね?」

 いたって真面目だ。
 小さい子に言い聞かせるような口調は、ねね自身がココに言われているときの口調にそっくりで。

「…ぷっ」

 思わず吹き出した卓とココに、ねねは憮然と唇を尖らす。

「もうっ! パーパ!?」
「ごめっ、あはは。わかった。そうだね。くくく」

 笑いが引っ込まないまま、ココを見る。ココも同じような表情だ。

「ママも、ねねとパパ好きだけど?」

 ねねを抱く卓の肘を抱えて、常より高い位置にある娘に顔を近づけた。
 ねねは少し考える様子を見せて、

「仕方ないな〜。ママも仲間に入れてあげる」

 と、鷹揚に頷いた。
 これには、魔界のお姫様も目をしばたく。
 卓と顔を見合わせて、ココと卓は声をたてて笑った。


2009.12.1

オチがワンパターンだな。オレ。
書いてる途中で堪らなく痒くなりました。
卓の口調はこんなんでイメージ壊しませんか? 大丈夫ですか?
だらだら続いてごめんなさい。も少しお付き合いくださいな。
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